別段寂しい訳ではない。
悲しい訳でもない。
ただ、少し憐れに思っただけだ。
そういう道しか歩むことの出来なかった少女を。
『…何か用なら直接言ってみてはどうだ?』
正直、今の私は気が立っている。
理由は察していただきたい。
…誰だって食堂に入った瞬間ヒソヒソと陰口を言われたら機嫌も悪くなるだろう?
つまりはそういう状態だ。
『…言う勇気もない、か。』
はあぁ…と、今までの比ではないくらい深い溜め息をつく。
あの“私が優莉を襲った(と皆に認識されている)事件”からはや三日。
直接的に暴言を吐かれたり、手を出されたり、なんてことはまだ無いが、私を見る度に皆がコソコソと陰口を言う。
勿論、蔑みの視線というオマケ付きだ。
言いたいことがあれば直接言えばいいだろうに、誰もそれをしない。
私を恐れているからか?
それとも、教師に何か言われるからか。
いずれにせよ、忍たまとは言え、彼らはまだまだ子供だということか。
また一つ、小さく息を吐き出した。
『…私はA定食を頼む。』
「ひっ…!」
カウンターで小さく縮こまっていた優莉に話しかける。
…でないと食事を貰えないからな。
すると小さく悲鳴をあげて瞳に涙を浮かべた。
…本当にくノ一に向いてるよ、アンタは。
『…聞こえなかったか?私は、A定食を、頼む。』
「オイ、お前いい加減にしろよ!!」
不意に大気を震わす程の怒声が響いた。
顔をそちらに向けると…なるほど、六年ろ組…通称暴君、七松小平太先輩が鬼の形相で立っていた。
いきなりの怒声に下級生が肩を揺らして涙目になる。
(小さく“すごいスリルー”と聞こえてきたが、伏木蔵。これ、スリルどころの話じゃない。)
『…七松先輩、食堂で騒ぐのは止めてもらいたいんだが。』
「お前が優莉に近付くからだろ!」
『食事を摂る為なのだから仕方ないだろう?』
「お前におばちゃんの飯を食う資格はない!」
七松先輩がギャンギャンと喚く。
下級生は震えている…申し訳ない。
逃げたくても入口に立っているからな…七松先輩。
『資格が無い?』
「あぁ、そうだ!お前なんかに美味い飯を食う資格は無い!!」
そう喚く七松小平太を見て、小さく笑みがこぼれた。
酷く、蔑むような。
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