『大丈夫か?』
別に優莉が誰と仲良くしようが構わない。
だけどな、恩を仇で返すのはいかがなものかと思うぞ。
正直、何が何だか分からない。
私はただ、校庭の不自然に空いた穴から啜り泣く声が聞こえたから声をかけただけだ。
『大丈夫か?』
「えっ、」
パッと期待に満ちた顔を上げたのは東雲優莉だった。
助けるか、と手を差し出す。
が、一向に彼女は私の手をとらない。
俯いて顔が見えないが、足をくじいたりでもしたのだろうか。
『…どうした?どこか痛いのか?』
「なんで…。」
やっと、彼女が顔を上げた。
…それはそれは不快そうな表情を浮かべて。
「なんで助けにくるのがアンタなの?折角上級生の誰かが助けてくれると思ったのに。」
忌ま忌ましげに吐き出された言葉に呆然とした。
…何だなんだなんだ?
『…驚いたな。』
「あー、私みんなの前では可愛い事務員さんだから。」
そう言って優莉はいつもの人好きの良い笑みを浮かべた。
『…お前くの一に向いてるぞ。』
「お褒めの言葉どうも。っていうか何でアンタなの?」
『は?…何が。』
「何で勘ちゃんも綾部くんも私のところに来ないのよ。ほんっと有り得ない。」
『まぁ、本人達の意思だからな。私にもどうしようもないだろう。』
「じゃあ何?アンタは勘ちゃんと綾部くんに愛されてるとでもいいたいの?」
何でそうなる、と痛む頭に手をやって溜め息をつく。
相変わらず東雲優莉は穴の中から私を見上げていた。
(いや、睨みつけていた…かな。)
『…まぁいい。上級生の誰かを呼んでくればいいんだろう?』
「あぁ、その必要ないわ。いいこと思いついたの。」
はぁ?と聞き返す間もなく、辺りに甲高い悲鳴が響いた。
ちょっと待て、色々理解が追いつかない。
なんでコイツ悲鳴を…。
私がただ呆然と立ち尽くして穴を覗いていると周りに次々と忍たま達が集まってきた。
「どうしたんだ、優莉!」
七松先輩が優莉を穴から出す。
涙を流す優莉を見て、みんな駆け寄って行った。
あぁ、嵌められたのか、私。
「優莉ちゃん、とりあえず医務室に行こうか。」
「う、うんっ…。」
そう言うと忍たま達は私を一度睨んでから優莉を囲って歩いて行った。
『女って怖ぇ…。』
ポツリと呟いた言葉は思いの外空に響いた。
(…巻き込まないでほしいものだ…。)
← →