崩壊アンビバレンス 1




「やっほー、こっちゃん」


金曜日の放課後。

いつも通り、ひとけのない図書館。


ぺしっと乾いた音とともに、あたしの頭が叩かれる。


「やっほー、りっくん。脳細胞減るから、やめてくれないかな、切実に」

「ごめんごめん。つい」


つい、じゃねーよ……。


心の中でそう思いながらも、撫でてくる陸の手が嬉しいから、黙っておこう。


「あ、そうだ、古都」

「ん?」

「好きだよ」



………………。



「は!?」

「あ、照れてるー」

「は!? 照れてないから!! てか、いきなり何!?」

「え? 好きだと思ったから言っただけですが」

「かゆい!! なんかかゆい!! すっごいかゆい!!」

「へえ、どこが?」

「全体的に!!」

「俺が掻いてあげよっかー」

「全力で遠慮します」


わー、もう、心臓に悪い。

なんだ、この悪魔。


「ふーん。で?」

「は?」

「古都は?」

「は?」

「古都は?」


……言えってことですか、ねえ、そうなんですか。


満面の笑みで迫ってくるのが怖い。

てか、なんかむかつく。

しかも、するする頭を撫でる手を止めないのも、かなりかゆい。


「ねー、こっちゃーん」

「……きだよ」

「えー? 聞こえないんですけどー」


なに、こいつ。

絶対面白がってるじゃん。


なんか、ほんとにむかついてきたよ、こっちゃんは。


あたしは、ぐっと陸の衿を掴んで、背の高い陸を屈ませる。

それでも届かなかったから、かかとを浮かせた。




「好きだってば!!」




絶対に聞こえるように、耳元であたしがそう言うと、



「うん、知ってる」



陸が、余裕の笑みを浮かべて、あたしを嘲笑うかのように、ちゅ、とキスをした。




―fin―
「……あれー、こっちゃん、どうしました?」
「穴があったら入りたい……」
「わあ、可愛いねー、照れてるねー」
「もう、ほんと、陸やだ……」
「【好きだってば!!】」
「ちょ、黙ってもらっていいかな、ほんとに」



 * 20100825

穴があったら入りたいのは私です。←




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