「んんー、シン…眠い…」
「ほら、部屋に着いたからもう寝れるぞ」
そのまま結局シンドバッドとナマエは2人で宴が終わるまで飲み明かした。ナマエは1人で戻れると言ったが、よろよろと歩いては柱にぶつかっていたので見ても立ってもいられず、足取りの覚束ないナマエを連れてシンドバッドは行き慣れた彼女の部屋へと向かう事にした。
部屋で寝るぞー!と言ったシンドバッドに、ナマエも酔っているので、おー!と腕を上げる。シンドバッドはナマエの肩をとり、ナマエは彼の肩に手が届かないので腰元の布を掴み、酔っぱらった2人はよろよろと歩いた。
「着いたぞー、っと」
「シン!今日も一緒に寝るんでしょー!」
「ぅおっ」
ナマエを横にならせようとすると、そう言って手放さなかったので、ふいをつかれてそのままシンドバッドはベッドへ倒れ込んでしまった。
「ナマエ!お前、嫁入り前だろ?俺でも駄目だってわかるぞ」
「人妻にだって手出すくせに」
酔っぱらっている所為でいつもより口調が強いし、屁理屈を言うなんて珍しい。
「それにまだ私は独り身です」
そう言ってナマエはシンドバッドをずるずるとベッドへ引き摺りこもうとする。いつもならこのままシンドバッドもべッドに潜り込むのだろうに、彼は何かを躊躇している。ナマエにだけはしっかり線引きした方が良いと思って、シンドバッドは思わず身を引いたのだ。それでもナマエは手を離さない。酔って思考力が低下している所為か、段々とどうでも良くなって仕方がなく横になった。それに、今更の話でもある。
ナマエはそれを見て、シーツに潜りこむ。すうっと深呼吸すると安心したようにまどろみはじめた。
「…シン」
「ん?なんだ」
「シンと一緒に居るのは、落ち着きます」
「…そうか」
「シンはさみしいから、私の所に来るんだって、勝手にそう思ってました」
酔っているからなのかぽつり、ぽつり、と普段は口にすることのないような本音をこぼしていく。
「それで辛くなくなるのなら、ってシンを拒まなかった」
ナマエの瞳から、雫が落ちる。窓から差し込む月光がそれに反射して、濃紺の世界は耳鳴りがするほど静かだった。
「シンがさみしいのは、嫌です」
ナマエに体を向けて肘をつき、幼子を寝かすようにナマエの背中を一定のリズムで叩く。シンドバッドは、涙に濡れる瞳を見て、優しく微笑んだ。
「でも、ほんとにさみしくて、それが嫌なのは、私なんだと思います」
それが辛くなったことも、甘えから逃げるように縁談を受けたことも、思い浮かぶすべてをシンドバッドに告げた。だけど決めたのは自分だから仕方がないのだと、ナマエは自分を嘲笑うように呟く。
シンドバッドが思っている通り、彼もナマエも、孤独は嫌いだ。けれど何も言わずに自分を受け入れて、自分のことを考えてくれるナマエを、優しい子だと思った。
「でもここに居たいから、やっぱり縁談は、」
「ナマエは良い子だから」
その後に続く彼女の言葉を遮った。彼女の弱音を認めて、受け入れることしか今のシンドバッドに出来ない。それがひどくもどかしいのを気のせいにする。シンドバッドが言葉を考えているうちに、ナマエは段々と瞼を閉じていった。ざわつく心を落ち着かすように息を吸って再び口を開く。
「きっと幸せになれる」
わかったような台詞を呟いてシンドバッドは目を瞑る。本当は1ミリもわかりきってない。思ってもないことを口にすることで、その心に気付かないフリをしているだけだ。
彼女と心地良く眠りにつけていた頃に、どうしたら戻れるだろうか。眠りに落ちたナマエの手を絡め取る。正直になれば自分の立場ならどうにでも出来るのにと、目を瞑ってはそう考えて、それを振り払うように目を開いて。その夜、幾度となく窓の外に浮かぶ月を見上げた。
僕らは孤独とキスをする
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