05.sonorite


※入部したての頃のお話


あたしは中学校を卒業して、そして念願のエルヴィン先生のいるこの高校に入学した。そしてそして、吹奏楽部に入部届けを出したのだ。さすが、ここ数年で成績を伸ばしているだけに、練習のレベルも高いし、同じ1年生でもみんなそこそこ実績のある中学校から来ていた人が多い。
1年生だけで集められ、この部活の決まりや、先輩の紹介や自己紹介、先生からの一言などがあるミーティングのようなものが催された。同じ中学校の友達なんてこの部活にはいないし、ただの引っ込み思案なあたしは、コソコソと隣の子と話をする同級生達を羨ましそうに見つめていた。

先生からの一言の時に、先生と目が合う。エルヴィン先生の所までやっと来られたと思って、ただそれだけが、今のあたしの心の支えだった。

自分の楽器を決めて、基礎練習用の楽譜がいくつか配られる。近々ある演奏会に1年生も出られるようでその楽譜もあった。
…楽しそうな曲だな、と思った。


次の日からさっそく練習は始まった。

1人で基礎練習を終え、曲の練習に入る。細かい音符多いなあ。楽譜読むの苦手なんだよなあ。リズムを刻むメトロノームを見つめ、あたしは小さくリズムに合わせて音符を口ずさみ、わかったら吹くというのを繰り返していた。

「おい、」

というか、難しいな、この曲…。レベル高ぇ。

「おいって!!」
「っ、ハイィ!?」

それは多分、ジャンと呼ばれる同級生だった。その男の子はアルトサックスを持っていて、不機嫌そうに見えたけど、あたしに向かってこう言った。

「一緒に曲の練習しようぜ、同じメロディーの所あるし。」
「あ、うん。お願いしまス。」

あたし達は適当に場所を見つけて一緒に練習を始めた。何気なく一緒に練習すると言ったけど、みんなこの子の事、上手いって言ってたから下手くそだと思われたらどうしようという不安が頭をよぎる。き、緊張してきた…吐きそうだ。

「お前の音、結構良いと思うけどさ、もうちょい合わせて吹こうぜ。」
「あ、すみません…」

お前上手いけどどこ中出身だ?と聞かれたので中学校の名前を答えると、どこだそれ、と怪訝な顔をして言われた。うん、あまり上手な学校じゃなかったから。

「あと、ここのリズムはこうだ」

彼は、あたしが苦戦していた細かい音符のリズムを吹いて教えてくれた。ありがたい。聴いたらリズムは1回で覚えられるから。なんだか、合わせて吹いたら、音が混ざり合って楽しい。こんなこと初めてだ。1人で吹くのと全然違う。何度か同じメロディーを一緒に吹いているうちにあたしはとても楽しくて嬉しくなってきた。

「お前、めちゃくちゃ楽しそうに吹くなあ。この曲、物語からできた曲だから、本読んでみろよ。いろいろ解釈して吹いた方がもっと良くなる。」

その言葉にあたしは目を見開いた。すごい。今までこんな風に合わせた事もなかったし、アドバイスを貰える事なんてなかった。あたしの中学校のみんなは、合わせたらこんなもんじゃない?と適当に終わらせていたから。

「あっ、ありがとう!すごい!すごい!合わせて吹くだけで楽しいのに、解釈とかも付け加えたらもっと楽しそう!すごいね!ジャンくんだっけ!ありがとー!」

なんだかもう嬉しくなって上がったテンションのままお礼を言うと、なんかキャラ違くね!?と言われたけど、これが本当のあたしだ。

「ジャンで良い。これからがんばろうぜ、ナマエ」
「うん!がんばろうジャンジャン!」

なんだよそのあだ名!やめろ!と、ジャンは顔を赤くして言ったけどイジり甲斐がありそうだなあとしか思わなかった。



「ジャン、ここ吹いて。音符細かくてわかんない。」
「テメェ音符ぐらいきちんと読めるようになれよ!」
「聴いた方が早いんだよお!!」

2年後、あの時と同じようにあたし達は練習している。なんだかんだ吹くだけじゃなくて手を叩いてリズムをちゃんと教えてくれる。一緒に吹くと、自然とお互いに寄り添うように音が混ざり合う。ああ、心地良い。

「だァから、ちゃんとリズム取れってーの!!真面目にやれ!」
「い、痛いって、ジャンジャン!叩かないでよ!ミカサにチクるぞ!」
「エルヴィン先生になんて言われても知らんからな!」
「はい!ちゃんとやります!教えてくださいジャン様!」


はあ…と、隣で盛大に溜め息をつくジャンが、誰かと一緒に吹く楽しさをあたしに一番最初に教えてくれたひと。



sonorite / 音の響き、共鳴
(たくさんの音は1つ1つ溶け合って)

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