01.allegro con brio


金曜日で学校も終わり、学生が毎週楽しみにしている休日、という土曜日。吹奏楽部は朝から夕方まで練習だ。楽器は1日練習をさぼれば元の状態に戻すのに3日はかかる。もちろん休日は必要だけれども、良い成績を出すにはそれなりに練習しなければならない。

「おっはよー!ライナー!」
「おう、ナマエ」
「早いね!一番乗りだと思ったんだけど!」
「偶々早く家出たからな。」
「あたしも今日早起きしたんだよ!あ、ねえ、今日来月の予定確認して先生に出すから幹部で集まるの覚えといてね。」
「おう。了解。朝起きたから、髪編んでんのか。いつもは何もしてないもんな、ナマエ。」
「おー、さすが気付ける男!朝はギリギリまで寝ていたいからね…。偶にはいいでしょ?」
「ん、いいじゃん。」

ナマエは吹奏楽部の部長である。自分でも頼りないと思うのに何故か部長だ。ありがたい事に部員や顧問の先生に恵まれて、何とかがんばっている。今日は自然と早く起きれたためサイドの髪をゆるく編み込んでいた。ナマエの隣で歩くライナーは彼女を支える副部長だ。ナマエよりしっかりしているのではと、特に彼らの同級生は思っている。そしてさりげない彼の気遣いは部員全員、特に後輩の女子ウケが非常に良い。

「あっ、ジャンジャン!」
「そのあだ名やめろ!!」
「すぐ怒るぅ」
「別に怒ってねえ!注意してんだ!」

ジャンは、コンサートマスターという、合奏前のチューニングや基礎合奏などを仕切り、言わば指揮者の次にバンドの音作りの責任者である。彼の音楽知識は部内でも勝るものはおらず、音感はもちろん、アドバイスは常に的確だ。ただ、ナマエのイジり相手である。

「あたし音楽室の鍵取ってくるね!エレンが来たらミーティング前に予定見といちゃおうよ!」
「わかった。」
「はやく鍵持ってこい。」
言われなくたってそうしますぅ!と言ってナマエは音楽研究室に向かった。
コンコン、と部屋のドアを叩く
はい、と中から低い声が聞こえた。
「失礼します。ミョウジです。」
「ああ、おはよう。ナマエ」
「おはようございます、先生!」

ナマエが笑顔で先生と呼んだ彼は吹奏楽部の顧問であるエルヴィンだ。他校の吹奏楽部顧問と比べると少し若めではあるが、その指導力はこの吹奏楽部を数年で全国大会に導くほどだ。ナマエは彼を追い求めてこの学校に入り、吹奏楽部に入った。故に、エルヴィンに非常に懐いている。エルヴィンもナマエをかわいがっており、ナマエの実力を買って良きプレーヤーに育てようとしていた。

「せんせ、音楽室と練習室の鍵借ります。あと、今日中に来月の予定持ってきますね!」
「ああ、頼んだよ。あと、ミーティングが終わったらジャンを呼んで欲しいのと、部費を来週末までに集めるようにミカサに伝えといてくれるかい?」
「了解です!」
「ナマエ、」
「はい?」
「今日は、かわいらしい髪型だね。似合ってる。」
「い、いつもより早く起きれたから…。ありがとうございマス…。」

失礼しました、と音楽研究室を出たナマエは火照った頬に掌を当て、ず、ずるい…と呟いた。恩師でもあるエルヴィンに尊敬と感謝を通り越した気持ちを時々感じてしまう。ナマエは頭を振り、邪念を振り払った。目に入った時計はそろそろ部員も集まってくる時刻を指していた。


「遅えよ、バカ!」
「しょうがないじゃん、ジャンジャン。先生との逢瀬を楽しんでたんだから。」
「だからジャンジャンって言うな!」
「ホント、エルヴィン先生好きだよな、ナマエ。」
「あ、エレンおはよ!よし、来月の予定決めちゃいましょー!」

ミーティングまでの時間に練習を始める音が聞こえ始めてきた。ナマエ、ライナー、ジャン、エレンはそろって音楽室の前のスペースに座った。
エレンはサブコンサートマスターで言わば、ジャンの補佐である。ジャンはアルトサックス担当でエレンはトランペット担当なので木管と金管に別れて練習する時などはエレンが金管のセクション練習を担当する。自分の意思が非常に強く、故に、気が短い。ジャンと意見が合わない事が多々あり、衝突する事もしばしば。それをなだめるのが部長と副部長の役割でもある。ナマエ、ライナー、ジャンとエレンを含めた4人が今の吹奏楽部をまとめる幹部だ。

「ま、いつも通りで良いんじゃないか?」
「そうだね。というかいつも休みないしね。とりあえず今月末から文化祭の準備はしないと、って言っても準備までには曲決めて、楽譜も全員に渡しとく事。他になんかあったけ?」
「この日は学内清掃だから、半日潰れるぞ。」
「げぇ、またぁ?」
「オレ、いっつもキース先生が担当の場所に割り当てられるんだよな…。」
エレンはがっくりとうなだれた。ライナーは真面目だから、使わせてもらってんだから掃除くらいしないとな、とエレンに声をかけた。とりあえず予定を付け加えるなどして修正し終え、ミーティングに移る。

ミーティングは朝9時に開かれて、出欠や連絡事項の通達をする。出欠をとるのはライナーがパートごとに全員の名前を呼んでいくのが決まりになっていた。
ジャンが練習の予定を伝え、そろそろミーティングも終わりに差し掛かったところでナマエが突然声を上げた。
「コラァ!!サシャ!音楽室で物食うな!」
「!…すみまふぇん!」
「練習前に歯磨くんだよ!!許すまじ!」
「ゆ、許してください!ナマエ…!」
「練習後、駅前のクレープで手を打とう。」
「あー!!行きましょうそれ!ていうかパンケーキのお店も新しくできたんですよ!」
「オメェら、あとでやれよそれ!!」
「大丈夫、ジャンジャンも一緒に行こうね。」
「うるせェ!!マジで真面目にやれ!」
「ねえ、ジャンジャン。それダジャレ?ダジャレなの?」
「まじでウゼエェェェェ!!」
「あー、他に連絡がないなら。ミーティング終わり。今日も一日がんばりましょう。」
「「「っしょう!」」」
最後のがんばりましょう、はナマエがするはずなのにライナーによってミーティングは打ち切られた。

こんな感じで彼女たちの毎日は続く。それがナマエにとっては最高の幸せだった。ナマエには吹奏楽は切り離せない生活の一部になっている。
何事もなく部員達が練習に移っていく姿を見てナマエは顔がほころんだ。
「えへへ」
「何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪ィ」
「よーっし!今日も一日がんばりますかあ、ジャンジャン!」
と言ってナマエはジャンの背中をぽんぽん叩いた。
「…おう。」



長くて、楽しい一日のはじまりはじまり。


allegro con brio / 輝きをもって速く
(毎日が青春の輝き!)

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