17.pizzicato


「…よし、これで全員送ったかな」

部活の連絡事項を同級生にメールで送り、ポテチを食べながら漫画でも読むかー、とお菓子を漁っていると、ポケットの中のスマホが何度か震えた。原因はあたしが適当に書いた件名の所為で、騙されたアホのジャンとエレンとクリスタからの本気で心配したメールが何通か届いていた。それ以外の人から2通メールが届いている。1通はユミルからの一言だけ「死ね」というもの。それからもう1通は…


Re:ミョウジ、部活やめるってよ
了解。
これから散歩しない?


よお、姉ちゃんこれからオレ達と遊ばない?みたいなノリでメールを送ってきたのはベルトルトだった。そこまで夜遅くないし暇だからいいかなと思って承諾のメールを返す。

「お母さん、ベルトルトと散歩してくる」
「あら、デート?いいわねえ、若いって」
「はいはい」

あたしとベルトルトは割と近所に住んでいるので15分ほどすると着いたよ、というメールが届いた。

外に出るとママチャリに跨ったベルトルトが待っていて、玄関の明かりに照らされた彼は微笑んでこんばんは、と言った。爽やか少年か。

「後ろ乗ってよ」
「うん」

ベルトルトの後ろに跨って街路樹をゆっくりと進んでいく。見上げれば、明かりの向こうにたくさんの星が散らばっていた。今日は星がきれいに見える日だ。宿題やった?とか今日の晩御飯何だった?とか、どうでもいいことをぼんやりと話ながら街灯の光を通り抜けていく。

「…でも珍しいね、ベルトルトがデートに誘ってくれるなんて」
「んー…、最近ナマエ、疲れてるなって思って」
「別にー」
「ほら、なんかあったらそうやって適当にごまかそうとするよね」
「そんなことないし」

図星過ぎて口を尖らせてしまう。機嫌が悪かったり嫌なことがあったりするといじけたみたいになってしまうのが知らぬ間に出てしまっているのだ。

「…まあそりゃ疲れるよ。毎日部活、勉強、部活、勉強。ほんとにこれでいいのかなって」
「なんで?」
「部活は楽しいし好きだから良いけど、部活せずに色んな子と遊んでも楽しいんだろうなって」
「まあ、他の部活の子とかとはなかなか遊べないもんね」
「そう、それ」

好きなものに対して多少の嫌悪を感じてしまうことが余計に自己嫌悪の原因になっていた。でもたまにはこんなこともあるよ。絶対誰でも、とか思ってここ最近そのことを誰にも言わず過ごしていた訳だ。

「ナマエには感謝してるよ。僕を吹奏楽部に入れてくれた」
「?ライナーとアニと一緒に入ってきたじゃん」
「あの2人は幼馴染だから、僕が言いたいのは他の人の輪に入れてくれたのはナマエってこと」

人見知りだからライナーとアニしか安心して話せる人がいなかったけど、ナマエはすぐに僕に話しかけてくれたじゃないか、ナマエと仲良くなっていくにつれて他の人とも話せるようになった。ナマエのおかげだよ

「あー…それはベルトルトが話しかけやすそうだったからだよ…」

あたしも人見知りで同じ中学から来てる人がいなかったから、ちょっと自信がなさそうだったベルトルトが、あのしっかりしてるライナーや、ちょっととっつきにくそうなアニよりも1番話しやすそうだと思ったのだ。そんな安易な考えがあったことを正直に言ったけど申し訳なくて目を泳がせる。

「はは、今ならわかる気がする。だってナマエだもん」
「だってナマエだもんってちょっと馬鹿にしてません?ベルトルトくん」
「ごめんごめん。僕には何が正解で不正解かはよくわからないけど、ナマエが部活をやっていることに間違いはない、と思う」
「間違いはないって何」
「つまり、ナマエが僕達には必要ってことだよ。ライナーもそう言ってた」

自分の居場所とか、必要性が時々わからなくなることもある。能天気なあたしにとっては今まで気にも留めなかったことだけど、それに気付いているかいないかで心持が変わる人もきっと居るのだろう。

「……ありがと」

改まってそう言われると嬉しかったこととか、いろんな辛かったことが昇華していく気がした。あたしが黙っている間、ベルトルトはライナーとアニとの思い出話を喋っていた。ベルトルトの背中に額を預けて、涙をこぼしてしまっていることに気がついてないと言うように。


pizzicato / 弦を指ではじく弦楽器奏法
(優しくて柔らかいね)

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