13.parlant


放課後を迎え、彼がいつも授業以外で仕事をしている音楽研究室のドアを開けると、そこにはいつも不機嫌そうな顔をしている仲間がドッカリと音楽研究室に入ってすぐにあるソファーに座っていた。

「やあ、リヴァイ。君がここにいるなんて珍しいね。」
「相変わらず物が多い部屋だな。ちゃんと整理してんのか」
「時間があればね」

そう言うと、リヴァイはごまかすんじゃねェと言って姑のように近くの棚に指をすべらせて埃のチェックをした。とは言ってもそこまで汚いという訳ではない。リヴァイが潔癖すぎるのだ。

「リヴァイ、コーヒーでも飲むかい?」
「…ああ」

掃除の事について言われるのはいつもの事なので、そこそこにスルーしたエルヴィンは備え付けの小さなコンロでお湯を沸かせコーヒーをいれるコップを2つ用意する。
コーヒーを注いだらリヴァイにコップを渡し、エルヴィンも向かい側のソファに腰を落とした。

「…あいつは卒業後どうするって?」
「誰の事だい?」
「お前んとこの部長さんだよ」
「ナマエの事か。珍しいな、君が1人の生徒を気にするなんて」
「ハッ、テメェがよく言うぜ。あんだけテメェがあいつを気にかけてやってる事の方がこっちにとっちゃ十分おもしれぇ」
「そんな風に見えるかい?」
「テメェで考えろ。で、どうなんだよ」
「…まだ何も聞いていないよ。」
「あいつなら音大とか行きそうだな。薦めてやらねぇのか」
「…もしプロになろうと思うなら、音楽で食っていく事は難しい。それに学費も馬鹿にならない。私は彼女に無責任にそれを薦める事はできないよ。」
「随分弱気なこったな。」
「彼女自身で決める事だ」


リヴァイは、彼がどの生徒達も大事にしている事を知っている。しかし、中でも中学生時代から拾ってきたナマエの指導にエルヴィンが熱を入れている事や、頻繁に気にかけてやっている事もリヴァイからしてみれば明確な事だった。3年生はそろそろ自分の進路希望を提出する時期になる。ナマエの進路についてもそろそろ考えている頃だろうと思ったのだ。


「しかし私がナマエを特別扱いしているように見られているのならまずいな」
「安心しろ。俺しかそんな事思ってねェよ。」
「はは、君は鋭いな。」
「まあ、果たしてお前があいつをどう思ってるのまでは知らねェがな」
「彼女は大事な生徒だよ。別に楽器がどうというだけじゃない。人として成長して卒業してくれればそれで良い。」
「あいつはお前にだいぶ懐いてるからな。おそらくどうしたら良いか決めかねている所だろう。もしそれがお前の所為だとしたら笑えるが。」
「…私は君が時々恐ろしいよ。」
「俺はお前をおちょくれて随分おもしろい。」
「さあ、そろそろ私は練習に顔を出してくるよ。コップはそのままで良い。」
「もう終わりか。残念だ。」
「皆の数学、頼むよ」
「あいつは勉強してきたらできるんだ。あとは知らん。」
「ナマエだけじゃない」


そう言ってエルヴィンは音楽研究室を出ていった。リヴァイが思うに、ナマエがエルヴィンを特別に思っている事はわかる。しかし果たしてナマエが自分の気持ちに気付いているのかまでは知らない。そして彼曰くナマエは大事な生徒である。

聖職者としてこういった事を考えるのは大問題である。しかし、リヴァイにとってはそんな事はどうでも良かった。誰が誰の事を想おうが本人達の勝手だ。



おもしろくなりそうだと、残り少ないコーヒーを飲み込んでリヴァイは聞こえてくる楽器の音に耳をすませた。



「うげ、進路希望書…?考えたくない…」
「ナマエ、それ明日までだぞ」
「えっ!うそお!ジャンジャンもう出したの!?」
「当たり前だろ」
「なになになにどうするのジャンジャンは!いやジャンジャンの事なんてどうでもいいや教えてあたしはどうしたらいいのおおお!」
「なあ、俺そろそろお前の事殴って良い?」


そんな大人達の会話があったことをナマエは知る由もない。



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(はぐらかし続けられるのか)

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