11.arietta


「よし、少し休憩しよう。休憩が終わるまでにさっきまで言った事を確認し直すように。」

エルヴィンは指揮棒を下ろし、そう言った。彼は音楽研究室に戻っていく。



「ぶ、ぶはあぁぁああ!!し、死ぬ…!!助けてライナー…!」
「しがみつくな、ナマエ。暑苦しい…」
「酸欠もあいまって頭が沸きそうだ…」


すっかり夏に突入した今日この頃。近々ある演奏会に向けてナマエ達は今日も1日中練習をしていた。合奏の休憩中、広い音楽室にはエアコンがついているものの休日と言う事で学校中の電気設備点検のためエアコンが使えなくなっていた。もちろん部員達がひしめく音楽室は蒸し暑くなっていた。しかも、金管楽器担当のメンツは先程まで重点的に絞られていたため、ナマエ達は休憩に入った瞬間椅子の上で伸びていた。

「く、口が死ぬ…」
「エレン、あんまり楽器唇に押し付けたら駄目だよ。しかしこの曲鬼畜過ぎィ…」
「エルヴィン先生もなかなかヒドイよな…」

ライナー、先生の悪口を言うんじゃない、とナマエは死んだ目で言った。確かにさっきはエルヴィンによってこってりと絞られた。めちゃくちゃハードだったのである。



「みんな、大丈夫…?きついけどがんばろ?」

クリスタが何かが入った袋を持って、ナマエ達に声をかけた。

「うん、がんばるよ…クリスタ…さすが吹奏楽部の女神…」
「……(結婚しよ)」
「ちょっとライナー、クリスタの事じろじろ見ないでよ」
「うるせえ、見てねえ。」
「クリスタ何持ってんだ?」

そうエレンが尋ねるとクリスタは袋を持ち上げて言った。

「あ、お母さんが今日は暑いからみんなで食べてってさっきアイス届けてくれたの。だから、この休憩中に食べて良いかな、ナマエ。」
「女神の、聖母だと…?」

どこにいるの!?見たいんだけど!!と、ナマエがクリスタにしがみつくと、もう帰ったよ…と困ったようにクリスタが言った。しがみついているナマエを見てやって来たユミルがをナマエ殴った。

「痛い!ユミル!バカになる!」
「もうバカだろ。しかしさすが私のクリスタ!オイ、ナマエ。休憩時間延長してもらって来いよ」
「…ソウデスネ」

アイスを食べるため休憩の延長を頼みにナマエは音楽研究室に向かい、許可を得た。皆でクリスタにお礼を言い、アイスを選ぶ。

窓辺に皆で座ってアイスを頬張る。身体も冷えて、時折窓から入ってくる風が涼しい。

「夏だねー」
「もうすぐコンクールだな」
「あたし今年は結構調子良いと思う!」
「その割にはエルヴィン先生にこってり絞られてたな」
「うるせージャン」
「今年も全国大会行けるよな!」
「エレン、行けるよな、じゃない、行くんだよ」

夏は、吹奏楽部にとって大きなイベント、コンクールがある。地区大会から始まり、県大会、支部大会と、各大会で金賞を受賞し、上位に入ればどの吹奏楽部員も夢見て憧れる全国の舞台に行く事ができる。3年生のナマエ達にとっては泣いても笑っても最後のコンクールだ。とにかく後悔だけはしたくないとナマエは考えていた。

「よおっし!!みんな食べ終わったら口ゆすいできてね!戻ってきたらさっき先生に言われた事きちんと確認する事!むやみに吹いて練習はこの時期禁物!じゃないともたないよ。一つ一つ、自分がどうやって吹いてたかきちんと覚えてね。……全国まで、みんなと一緒にいさせてください!!」

「それは俺のセリフだよ、ナマエ」
「ぎゃあ!ジャンジャンやめて!せっかくのヘアスタイルが乱れる!」
「今日もボサボサで来ただろうがよ、バーカ」


そう言ってジャンはナマエの髪を掻きまわした。


「さーて、休憩も終わりだ!」
「うわあ!ライナーもやめてよ!」
「バカナマエともう少し頑張ってやるか!」
「…ちょ、痛ッ!ユミル!痛い!髪抜ける抜ける!!」
「頑張ろうね、ナマエ」
「えっ、クリスタまで…!」


何故か次々と部員達がナマエの髪を掻きまわしていく。


「ごめんね、ナマエ。なんかご利益あると思って」
「アルミンまで…」

最後に優しくアルミンがナマエの髪を撫でた。


こういう時に、1人じゃないんだな、とナマエは思う。彼らがナマエは大好きだ。逆もまた然り。



合奏が再開されて、ナマエのボサボサになった髪を見たエルヴィンは少し笑った。にやにやする周りの部員達を彼女は少しだけ睨んだが、指揮棒が振られた瞬間、皆の音は休憩する前よりも元気になっていた気がした。



窓から吹いた風が、微かに譜面を揺らした。



arietta / そよ風
(あたし達の夏が始まる!)

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