battement de mesure


※続き


(辞めるって決めたのに、来てしまった…)

2日後、結局あたしはあの人の事が忘れられなくてコンクールの会場に来ていた。

私の学校って言ってたからどこかの高校の指導者なのか。座席に座ってプログラム12番を待つ。…あれ、12番って、最近強いって噂の高校じゃん。あんな若そうな人が顧問な訳なくね?大体の学校の指揮者が老けたおじさんかおじいちゃんであるイメージを抱いていたあたしは何となくそう思った。プログラム12番、とアナウンスが鳴って指揮者が入ってきた時、あたしは自分の違うと思っていた事が、事実だった事を知る。


エルヴィンスミス先生


あの先生の居るウォールローゼ高校の吹奏楽部は、ここ数年、成績を伸ばしてきている。それは彼が新しい顧問として赴任してきてからだと、そんな噂を聞いた事がある。噂に聞いていた学校の演奏は、もちろん中学校とはレベルが違うし、他の高校と比べても、楽しそうで、美しくて。一気にあたしはその虜になった。一生懸命その高校の演奏を聴いた。
そして、課題曲が終わり、自由曲を聴いてあたしは泣く事になる。

一緒だった。

あたしが2日前演奏した曲と一緒だ。

わざわざあたしが演奏した曲と同じものを聴かせるなんて嫌味なのかとすら感じた。あんな風に演奏してみたかった。優しくて、楽しくて、柔らかくて。あたしには彼の指揮がひとつひとつの音を魔法の杖を振るって美しく混ぜ合わせているように見えた。あたしも吹いたソロの所で、あたしは自分が演奏し、目の前で彼が魔法の杖を振っている姿を想像した。もうそれだけで、どろどろに心が溶けてしまいそうだった。もう吹奏楽なんて辞めるんだと決めていたあたしの心はこう警鐘を鳴らしていた。


辞めたら、後悔するぞ。


クライマックスのメロディーが壮大に鳴り響く。もう終わりだ。
あたしは、終わりになんてしたくない。
あたしにはまだ知らない事ばかりだ。



会場は拍手の音に満ち溢れていたのに、あたしは何故か溢れる涙を止める事もせず、指揮台の側に立つ彼を見つめたまま、ただ座っていた。



battement de mesure / 鼓動する
(やっぱり後悔したくない)

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