08.meno mosso


「ありゃ、リヴァイ先生がここに居るなんて珍しいですね」
「エルヴィンはどこだ」

エルヴィン先生に用事があるのか、リヴァイ先生はめったに姿を見せたことの無い音楽室に来ていた。
この目つきの鋭い人、リヴァイ先生は吹奏楽部の副顧問で、楽器経験はあるのかどうか知らないけれど、引率や楽器運搬の手伝いをしてくれる。

「多分すぐ戻ってくるんじゃないですかねえ」
「そうか。」

先生はドカリ、とあたしの横に腕と足を組んで座る。え、なんでっすか。

「あ、あの…なんで隣に?」
「ナマエ、お前この間の小テスト何点だった。」
「あ…えっとぉ、あれ、何点だったかなぁ…」
「はっきり言え」
「ごっ、5点です!!」

ギロリ、とその鋭い視線は私に突き刺さる。50点満点のテストで5点という無残な結果を出したのは記憶に新しい。

「誰が教えてやってると思ってんだ…」
「リヴァイ先生様です…」
「…どうせ部活で疲れて夜勉強せずに寝てたんだろ」
「…仰る通りです、あだっ!」

リヴァイ先生はあたしに鋭いチョップを喰らわせた。真顔でチョップがちょっとおもしろいとか言ったら次はチョップですまないのだろう。

「部活に懸命になるのは良いがな…」

ああ、まただ、とあたしはその言葉を聞いた瞬間思った。大人達は皆、口を揃えてそう言う。部活が全てじゃないのよ、勉強もしなさいよ、言われなくたってわかってる。目の前にあるものだけが全てじゃない。

「お前は1人で全部しようとしすぎなんじゃないか?部長だから、全員を守るために1人ひとりを見なければと思って、気張り過ぎだ。」
「え、」

そう言われて目を見開いた。リヴァイ先生も他の大人達と同じような事を言うものだと思ってたから。確かにテストの前の晩は、部活に対して悩みがある後輩と夜まで話していた。しょうがないのだ。気張ってなんかないけど、例えパートが違っても気になるんだ。何か悩んでるなら、苦しんでるなら、一緒に解決したい。お節介なのかもしれないけど、みんなと一緒に居たいから。でも1人ひとりと信頼を築くのはとても時間がかかる事だと思う。なんでリヴァイ先生にわかったんだろ。

「エルヴィンもお前を気にかけてる。あんま成績の件でも心配させるなよ」

やっぱり。エルヴィン先生から聞いたのか。この調子じゃエルヴィン先生に数学のテストの点数言いそうだな…。

「がんばります…エルヴィン先生には点数言わないでくださいね。」
「どうだろうな」
「恥ずかしいから…!!」
「じゃあ勉強しろ。お前、卒業後どうするんだ?」
「う…まだ考えてないような、悩んでるような…」
「そうか、まあこんなに何かに熱中できんのも今のうちだ」
「やっぱそうですよね!」

先の事も大事だけど今ももっと大事だよね!リヴァイ先生わかってるぅ!と思ったのは一瞬だけだった。

「だがよ、ナマエ
あの時こうしておけば良かったって思うのは後になってからだ。今だけをがんばるか、先の事も考えてがんばるか。」
「わかってますけど、難しいです…。でも、やれることはしなきゃ。」


「まあ、せいぜい後悔が無い方を選んで、がんばれよ。皆お前を信じてる。」


リヴァイ先生はあたしの頭をぽんぽんと叩いて立ちあがった。

あたしは卒業したら吹奏楽部からも学校からも、もちろんエルヴィン先生や仲間の下からも離れなければならない。後悔が無い方なんかわからない。でもやれるだけ全てをやって、振り返ってみれば、真っ直ぐでなくても点と点は繋がって線になるんだと思いたい。



「次赤点取ったら部活休ませて掃除させるからな。」
「そ、それだけは勘弁です…」
「がんばれよ」
「はい!」

リヴァイ先生に見られながら掃除なんてしてたら家に帰れない。でも、リヴァイ先生の事なんだか好きになったなあ、と音楽室から出ていく先生の後ろ姿を見て思った。


……卒業後、か…
どうしよう。



meno mosso / 今までより少し遅く
(迷うけれど、決めなければならないこと)

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