portamento


※07の続き


そんなこんなで本番当日を迎えた。チューニングを終え舞台裏へと移る。今まで前に立ってしかも鍵盤ハーモニカなんて吹いた事がないから緊張する。だけどめったにない事だし、練習もがんばったし、緊張以上に楽しみだ。

「さてさて、そろそろ先生には例のブツを…」
「なんだい、ナマエ?例のブツって」

「サシャ、コニー!」

サシャとコニーが最後は完徹してまで作ったというマングースの着ぐるみをふらふらと持ってきた。なかなかのクオリティだ…。グッジョブ、2人!ありがとうの意を込めてぐっと親指を立てた。


でも…あれ、なんか小さくね?先生これ入るの?

「すみません、ナマエ。駅前のクリームメロンパンには勝てませんでした…。」
「ナマエがこれを着るのかい?おもしろいな。」


あたしは愕然とする。先生マングース化計画が…!!誰だ!こいつを、サシャを釣ったのは!!
コニーとジャンを見るとわざとらしく口笛を吹き、ライナーはニヤリと笑った。

「やっぱり言い出した奴に責任があると思わないか、ナマエ」
「ら、ライナー…!この!裏切りもんがぁぁあああ!!」

やめてええ!と、抵抗すると、時間無ェ!!と、コニーとサシャが無理やりマングースをあたしに着せる。吹奏楽部の皆さん準備に入ってくださーい、という声がした。ああ、最初から仕組まれていたのか…?

暗くされたままの舞台へと移る。先生がナマエ、と言うので先生の方を向いたらマングースに扮したあたしを見て噴き出した。笑うなら呼ばないで下さいよ、と口をとがらせると、始めるよ、がんばろう、と先生は言った。
先生のソロから始まるとあたし達にスポットライトが当たる。その瞬間会場はざわめき、あたしの心は躍動する。

「あー、この曲聞いた事あるー」
「きゃあ!あの先生かっこよくない!?」
「マングースかわいー!!」
「かっこいい!」



「どーゆう事だよおおお!」

演奏が終わり、歓声に包まれながら舞台を後にしたその瞬間あたしは叫んだ。

「いや、何も知らずに先生に着ぐるみ着せるってニヤニヤしてるナマエが最高過ぎたぜ」
「なんだかんだッ、小躍りしてるしよォ、ブハッ思い出したら笑える…!!」
「ナマエ、めちゃくちゃかっこ良かったぜっ」
「演出上仕方ないだろおおおおジャンこのヤロー!…エレンはありがとう。」

ヒーヒー言いながら部員達があたしを見て笑う。最初から嵌められていたのだ。エレンだけが目を輝かせて褒めてくれた。

着ぐるみを嵌められて着せられたせいであたしの機嫌は悪い。その上、歓声の中に先生がかっこいいというものが多く含まれていたので機嫌は最低になる。

「ぐすっ…先生の着ぐるみ楽しみにしてたのに…」
「オイ、泣くなよ」
「普通に鍵盤ハーモニカ吹いて指揮振ってる先生なんかただのイケメンだろおおお!なんのためのマングースだと思ってたんだよ!」
「何言ってんだよ!先生隠すためだったのか?汚ェ!鼻水つけんな!」

そうだよ!先生を隠すためだよ!


「いや、ナマエ。かわいかったと思うよ。」


エルヴィン先生はケロッとして言った。でた、先生のあざとい攻撃…!
お疲れ様、と言って消えていった先生をあたしは身動き一つせず見つめていた。多分、顔が赤いと思う。

「おい、おいナマエ……ダメだコイツ」

ジャンがあたしの目の前でバカにしたように手を振っていた。よくもまんまと嵌めてくれたな…!グーをジャンのお腹に埋め込む。

「っ!…ジャン!許さん!!」
「うぐっ…!!俺だけかよ!?ライナーは!!」



結局入部した人数は例年通りに毛が生えたくらいで、校内でのエルヴィン先生人気を高めただけという結果に終わったのだった。



portament / ほかの音に滑らかに移る
(裏切り者達は歓喜する)

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