今日という日にさよならをして
今日の任務も終え、当たり前のように向かった部屋は、私自身の部屋ではない。
いつからか、この部屋に帰って1日を終えるようになった。疲れきってしまった体には部屋のドアすら重たく感じる。
「おかえり。」
「あ、先に戻ってたんですね、エルヴィンさん」
「ああ、内地から直帰したからね。シャワー浴びておいで。良い酒を内地で貰ったから少し飲んで寝よう。きっとよく眠れる」
「はーい」
シャワーを浴びてすっきりした後部屋に戻ると、エルヴィンさんはソファに座ってグラスを用意してくれていた。
疲れた体にはおいしいお酒はすぐに沁み渡って、眠りへとあたしを導く。眠くて眠くて、傾いた頭は隣に座るエルヴィンさんの肩に当たる。
「疲れたんだな」
「エルヴィンさんの方が、疲れてますよね」
「君が居てくれたらよく眠れるし、疲れもとれるよ」
「ベタな事言ってくれますね…」
恥ずかしさを紛らわしながら、エルヴィンさんの顔をこっそりと見上げる。夜と朝起きてすぐにしか見られない彼の下ろされた髪の毛は灯りで綺麗に揺らめき、少し伏せがちな目には睫毛が影を落としていた。綺麗だな。好きだな…と、単純にそう思う。
黙って手を握るとエルヴィンさんは手を握り返してくれた。
「いつもお疲れ様」
「ん、エルヴィンさんも…」
頭の頂から額、頬、唇にキスを落とされながらも、限界を迎えたあたしは眠りに落ちてゆく。もう一度唇を重ね合わせる感覚がした。
「好きだよ。おやすみ。」
それが意識がなくなる前に聞こえた最後の言葉だった。
20130723~1007