きいろいリボン

今日、世の男子生徒たちは一日心許ない日を過ごす事になる。

今日という日を気にする事もない男子も、気にしていない振りをしている男子も、1回は意識した事があるだろう。

少なくとも、意中の子が居る場合は必ず。

「ライナー、何そわそわしてるの?」
「は?い、いや、そわそわとかしてねえし…」
「そう…?」

朝から幼馴染であるライナーが落ち着かないように辺りをきょろきょろとしている事にベルトルトは気付いていた。

今日はバレンタインデーだ。

ライナーとベルトルトは学校へ向かう途中、もう1人の幼馴染であるアニからチョコをもらった。これは小学生の時から続いている事で、ベルトルトはいつもアニからチョコをもらうとバレンタインデーを思い出すのだ。

「あ!ライナー!ベルトルト!おはよー!」
「おはよう、ナマエ」
「おおおおおう!お、おはよう!ナマエ!」
「はは、どうしたの?ライナー、どもりすぎだよ!」
「そんなこと無いだろ!きょ、今日は良い天気だな、ナマエ!」
「うーん、ちょっと曇ってるけどね。本当、大丈夫?ライナー」

ナマエは、2人と同じクラスの子だ。ライナーとナマエは隣の席で、クラスの中でも仲が良い男女だと思う。ライナーが最近よくナマエの事を話しているのをベルトルトは思い出した。なるほどそう言う事か、先程の会話から何故ライナーが今日は落ち着きがないのか、ベルトルトには容易に想像できた。

またあとでね、とナマエが走って学校へ向かうのを見送ると、ベルトルトはライナーを見た。名残惜しそうにナマエの後ろ姿を見るライナーに向かって小さくがんばれ、と呟く。

彼には届いていないようだけれど。


学校へ着くと、ライナーのそわそわは最高潮に達したようだった。下駄箱の中を2度見、机の中身を最低3回は出して何か入ってないか確認しているし、ロッカーも整理しねえと、と白々しく呟いてお目当ての人からのチョコレートを探していた。

肝心のナマエは、休憩中に楽しそうに他の女の子達と作って来たお菓子を交換していた。

「最近は机とかロッカーにチョコレート入れられる事ってないんじゃないかなあ…」
「だよな…って、は!?」
「わかりやすいね、ライナーって」
「気付いてたのかよ…」
「ナマエに聞いてみたら?誰かに渡すのか?って」
「聞けたらもう聞いてる…」

重い溜め息をライナーが吐くと、授業開始のチャイムが鳴って、ライナーの隣にナマエが戻って来る。

「いやー!いいね!バレンタインデーって!見て、ライナー!女の子ってすごいよね!マカロンとか作っちゃうんだよ!?女の子万歳だよね!」
「そ、そうだな…いいな」
「うーん、ライナーにもお裾分けしたいけど…マカロンは駄目!」
「ナマエがもらったんだからナマエが食べろよ」
「そう?」

先生が来ない事を良い事にナマエは他の女子からもらったお菓子をおいしそうに頬張っていた。その姿を可愛いと思いながらも誰か好きなヤツにチョコをあげるのか、気になっている事ばかりがライナーの頭の中を100週くらい駆け巡っている。

「ナマエ」
「何?ライナー」
「好きな男子にチョコあげたりしたのか?」
「え?えーと…まだ、あ、あげてないよ?」
「そうか…」

何となくぎこちない会話になり後悔するライナー。まだ、とナマエは言っていた。と言う事はこれから誰かにあげるのかもしれない。

「いいな、ナマエからチョコがもらえるヤツは…」

無意識に思っていた事が彼の口からこぼれおちた。ごまかさなければと思って、ナマエを見ると、ナマエは真っ赤になってライナーを見ていた。

「ら、ライナー…」
「な、何だ?」
「チョコ、欲しいの?」
「さっ最近みんな凝ったの作ってるみたいだしな…!いや、別に誰のでも良いって訳じゃなくて、その、ナマエはどんなの作ってんだろうなと思っ…て…」
「良かったら、どうぞ…」

ナマエの手には丁寧に包装されてリボンの掛けられた箱があった。

「俺にか?」
「うん、あげる。ほ、ほ、他の男の子にはあげてないからっ…その、つまり…そういう事だから!」
「それって、つまり…」

ナマエはそう言うと勢いよく机に伏せた。髪の隙間から覗く耳は真っ赤だ。

席着けー、とタイミングが良いのか悪いのか、先生が遅れて入って来る。

受け取ったと言うか押し付けられた箱をぼんやり眺めていたライナーは我に返った。


授業が終わったら、ナマエを連れ出そう。そうしたら、伝えよう。


きっと顔を真っ赤にして頷いてくれるのだろうと思うと顔が緩んでしまって、授業中ずっと教科書で顔を隠すライナーと、うつ伏せたままのナマエを、ベルトルトは微笑んで見つめていた。

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