ever since

「ナマエ、こっち向けよ」
「ぅあ、は、はずかし…」

ライナーは壁に片手をついて、下を向いて赤く染まる顔を隠すナマエの表情を伺っていた。これまで何度もキスしてきたのに、いつもナマエは恥ずかしがる。ライナーはそれがまた可愛いと思ってしまうのだ。唯一恥ずかしがらなかったのは、逆に初めてキスをした、あの立体機動訓練の時ぐらいだっただろうか。

「いいから」
「う…、ん…」

ナマエはきゅっとライナーのシャツを掴み、ライナーは彼女の頬に手を添えて唇を重ねた。



これが最後のキスになるなんて。



「ナマエ…っ!!すまない…!いつか、迎えに来る…!」
「…っ待ってライナー!なんでっ…!」

ナマエが最後に彼と交わした言葉はそれだけだった。
ナマエは自分の目を疑った。ミカサがライナーとベルトルトに突然切りかかった。それだけで涙が出たのに、彼らが巨人の姿に変わってしまった事が信じられなくて、ナマエにはただ、彼の名前を叫ぶしかできなかった。

「ライナー!?ライナーッ!待って!ライナー!!…っ嫌あああっ!!」
「ナマエ…ッ!!危ない!やめるんだ!」

壁から飛び降りていくライナー達の姿を追うナマエをアルミンが引き止めた。

どうしてどうしてどうして…っ

ナマエはアルミンにすがって泣きじゃくりながら叫んだ。
巨人の姿で逃げていった彼らはおそらくもう戻ってこない。きっと故郷に帰るのだ。ライナーは、彼女よりも故郷を、ベルトルト達を選んだ。

「なんっ、で…!ラ、イナー…っ!!」
「落ち着くんだナマエ!」

いつか一緒に俺の故郷に行かないか、と言った彼の姿を思い出した。春の陽だまりみたいに柔らかなその未来が欲しかっただけなのに、こんなにもあっさり離れ離れになってしまうなんて。
終わってしまうなんて。

「おいて…かないでよっ…ライナーっ!!…っ待ってるから…!!死んだって…っ待ってるからあっ…!!」



「…っ!!…は、」



柔らかな春の朝日が射す窓の外からは控えめな鳥の声が聞こえてくる。ナマエは外の光を目にして目を細める。今日は、高校の入学式だ。目覚めの悪い夢を見てしまったナマエは頬に伝う涙を手慣れたように拭った。

彼女はあの夢を時々見ていた。しかもそれは高校への入学がせまるにつれて回数は増えていき、ここ最近その夢の所為で毎日のように息苦しさで目を覚ましていたのだ。

「いってきまーす!!」


真新しい制服に身を包んで玄関を出る。とぼとぼと歩いていくと同じ制服を来た人達が増えてきた。一体あの夢は何なのだろう、とナマエは考えながら歩く。ふと、同じ学校の制服を着た金髪と黒髪の背の高い男の子を追い抜く時、金髪の子と目が合った。


「…ッナマエ…!?」
「え…?」


突然すれ違った金髪の男の子に呼び止められた。突然知らない誰かに名前を呼ばれた事に驚き、彼の方を振り返ると苦しそうな、でも安堵しているような表情をしていた。ナマエは、なんだか夢の中に出てきた人に似ているな、背が高くて、少し…怖い、とだけ感じて彼を見上げる。

「ナマエ…、俺…ごめん」
「あの…え、ごめんなさい、会った事ありますか…?」

彼は何故か彼女に謝る。ナマエがそう言った瞬間、彼はその表情を悲しそうに歪ませた。

「…いや…すまない、突然引き止めて」
「いえ…」



そう言って再び歩を進めようとすると、待ってくれ、と右手を掴まれた。

「俺の事、覚えてないか」

握られた手に力が込められたその瞬間、夢に見た光景がナマエの頭を駆け巡った。それだけじゃない、彼と想いを交わしたあの巨大樹の木の下も、最後に交わしたキスも、全部、ぜんぶ。



「、あ…」

ナマエの頬に涙が伝って、ポタリ、と地面に染みを作った。無意識にナマエの唇が動く。

「…ら、らいなー…?」
「!…思い出したのか…!?」
「っう、ん…ごめっ、忘れてた…ライナーッ…!あたし…っ」
「いや、俺の方が悪いんだ…。ごめん、遅くなった…。ずっと、ずっと探してた、ナマエ…」
「あの時からずっと…、ずっと…?」
「ああ、すまない、許してくれ…」
「謝って欲しくなんかっ、ないよ…」
「…今度こそ、離したくない」

ライナーは強くナマエの手を握り締め、彼女の手を引いて胸の中にその小さな身体をしまい込む。

もう置いて行ったら許さないから、といつかのようにナマエは言った。



あの時彼女が欲しいと思い描いた未来は、長い長い眠りからゆっくりと目を覚ました。

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