melting moon

※現パロ


夜を迎えて晩ご飯を食べたらシャワーを浴びる。フローリングの上に置かれた机とソファーの間、地べたに座って友達から来ていたメールを返したりテレビを見たりするのがあたしのいつもの習慣。

打ち込む文章を考えているとまだしっとりと濡れて束になっている髪が背後から持ち上げられた。突然の事にぞわりと頭から背中にかけて粟立つ。それはあたしの後ろにある広めなソファに横たわっている彼の仕業だった。持ち上げては指に絡めては、指を差し込んでとかされる。機嫌が良いのか彼は鼻歌まで歌っていた。


「ん、エルヴィンさん、くすぐったい…」
「髪、乾かさないと風邪ひくよ、ナマエ」
「はーい…」

めんどくさがって時々髪を乾かさずに寝てしまうのはあたしの悪い癖だと思う。

「髪、乾かしてあげよう」

そう言ってエルヴィンさんは鼻歌を歌いながらドライヤーを取りに行った。
ドライヤーの熱風の音が響いて、あたしはされるがままに髪を乾かしてもらった。こういう光景って微笑ましいものなのかもしれないけれど、あたしとエルヴィンさんだとなんだかシャンプーした犬をドライヤーで乾かしているような画が頭に浮かんで、なんとなく可笑しい。

彼の優しい指先と温かい風があたしの髪の間を通り抜けていくと、心地良くなってきて眠たくなってきた。

「…はい、お終い」
「ありがとう、エルヴィンさん」
「もう寝よう、ナマエ」
「うん、眠くなってきました」

2人で机の上にあったコップを片づけたり、窓の鍵を閉めたり、それが自然と分担してできるあたり、それだけ2人で居ることが長くなったんだなあと、何気ない幸せを噛みしめて部屋の電気を消した。



2人でベッドに潜り込んで、ブックライトを点けてしばらくはお互い別々のことをするのも、あたしとエルヴィンさんのいつもの習慣。エルヴィンさんが本を閉じて枕に頭を沈めたらあたしもそうするのだ。

「ナマエ、こっちにおいで」

彼の低い声でそう言われれば未だにどきどきと心臓が高鳴る。目が覚めてしまいそうだ。その腕で抱きしめられるとどろどろに溶けてしまいそう。いつもそう思ってる。

「次の休み、どこかに行こうか」
「休み、合いますかね?」
「合わせるんだよ」
「ふふ、どこに行きます?」

エルヴィンさんはあたしを抱きしめて、頭を撫でながら話をしてくれる。子どもみたいだけど子守唄を歌ってもらっているみたいで心地良い。


「そろそろ寝ましょうか」
「ああ」


そう言ってエルヴィンさんから離れようとしたら、逆にきつく抱きしめられてしまった。

「エルヴィンさん、」

いつも抱きしめられたままが申し訳なくて離れようとするのに、彼は離してくれない。腕、大丈夫かな、とか寝づらくないのかな、とか気になるのだ。もちろん嬉しくもあるけれど。


「嫌かい?」
「嫌ではないけど…寝づらくないですか?」
「…こうしないと寝られないんだ、最近」


思わず顔を上げてエルヴィンさんを見つめた。そんなこという彼は珍しいから。いつものように優しげな表情だけど、少しだけ、弱い彼を見た気がした。夜だからかもしれない。必要とされてることが嬉しくて、少しでも心の隙間を埋められるなら、その気持ちを込めてエルヴィンさんの背中に腕を再び回した。

そうすると、エルヴィンさんはあたしに覆い被さるくらいきつくきつく抱きしめたら、唇にキスを落とした。今度こそ本当に寝よう、そう呟いて、また抱きしめて。また溶けてしまいそう。


溶けそう、なんかじゃない。


あたしの心はとっくの昔にどろどろに溶けてしまっているのだ。



眠りに落ちる前に深く呼吸をすると、石鹸と、彼の匂いがした。

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