カラフル

※現パロ


病院からの帰り道を、一息つきながら立ち止まる。大きくなったお腹に手を当てて、ここに人間が入っているのかと何度だって不思議に思うのだ。
妊娠を知ってから、毎日がたくさんの色で彩られるようになった。とくとく、と心臓が動くたびに、ほんわりとその色を変える。お腹空いたな。はやく帰ってご飯を作って、あの人の帰りを待とう。
再び歩き始めようとすると、ポケットに入れていた携帯が震えたので取り出して画面を見た。 思わず笑みが浮かんですぐさま通話ボタンを押す。

『やあナマエ!』
『ハンジ!!久しぶり!』
『ああ、私は君の旦那さんから毎日毎日ナマエの事を報告されるから久々に感じないけどね。調子はどう?良さそうかい?』

受話器越しにお互いの笑い声が響く。

『うん、今日も病院で順調だって言われた。エルヴィンは心配しすぎなんだよ。大丈夫かなあ、こんなお父さんヤダって言って出てこなかったらどうしようとか言ってさ、ふふ』
『っあはは!それは傑作だ!この前は君を泣かせてしまったって、落ち込んでたよ?』
『あー…それね、』


悪阻も終わって、最初は慣れなかったその生活も板についてきた。心配な事や不安な事は尽きないけれど2人の間に子供ができて、家族になるのだと思うと楽しみで幸せだった。

「ナマエ、洗濯物は俺がするから、君は座っときなさい」
「大丈夫だよ。洗濯物はするからエルヴィンはお皿洗って?」
「それもしておくから」

とりあえずは任せたけど、その後もあたしがしようとする事はすべてエルヴィンが奪っていった。最初はありがたいと思ったものの、次第に我慢ならなくなっていく。
そんなの、これから赤ちゃんが生まれたらずっとそうやっていくつもりなの?あたしだって母親らしくなりたいんだから。そう口にすると、段々本当に自分がふがいなくなってじわりと涙がこみあげる。

「っあ…ナマエ、すまなかった…」
「やれることはやるもん…っ」
「…ごめん」
「ばかぁ」

『って事があって』
『ははは、そうだったんだね。まあ、育休取るって職権乱用しようとするくらい君と赤ん坊が大切なんだよ、エルヴィンは』

こっちもサポート出来る事は何でもするからさ、いつでも連絡して、そうやってハンジとの電話を終えると、丁度良く家の前に辿りついた。
パパもママもハンジには頭が上がらないねー、と赤ん坊に語りかけた。
もう、ひとりごとではない。



ある日、いつものように家事をしているとなんだかお腹に違和感を感じた。あ、陣痛だ、そう頭を過ぎると、そこからはサクサクと動きが進む。病院に電話をして、出産に向けて準備していた物を確認する。ついでに旦那さんに電話しなきゃな、と携帯を取り出す。1コール鳴り終えない内に繋がり、この人ちゃんと仕事してるのかなあ、と若干の苦笑いを浮かべる。

『どうした?ナマエ』
『あの、陣痛が来たみたい』
『陣痛!?だっ、大丈夫な『間隔が早まったら病院行くねー』っちょ』

「さて、準備しなきゃ…」

お風呂に入って、着替えを準備しなきゃなーと、ナマエはすっかりエルヴィンの心配など余所に家を出るまでにしなきゃならない事を考えていた。


「っハンジ!!どうしよう!?さっき電話したっきりナマエと連絡がつかないんだ!!とっ、とにかく家に帰る…!ああっ、これも取り引き先に持っていかないといけなかった!ああああ、あと会議だ!くそっ」
「落ち着きなって、エルヴィン。多分彼女の事だしもう病院に連絡してるんじゃないの?あと、会議はなんとかするようにしておくから、とにかく落ち着いて、お父さんになるんだから」

一方、エルヴィンの勤務先では、伝える事は伝えたとすっかり満足して電話を切ったナマエに対して、こっちが見ていられない程のエルヴィンが、ハンジになだめられていた。

頭が真っ白になってあたふたしているエルヴィンに、あれをしろこれをしろ、とハンジは指示を出す。その姿を部下達は目を丸くして見ていた。あんなに頼りがいのあるエルヴィンがここまで取り乱すものか、と。しかしそこに居た者全員が、エルヴィンとナマエ、お腹の中の子を応援していた。


出産間近になって、やっとエルヴィンは病院に辿りつく事ができた。がんばろう…!と声をかけ、エルヴィン…!とすがられると思いきや、気が散るから出てって!とナマエにブチ切れられ、逆に冷静になったエルヴィンは、大人しく外で待つ羽目になる。これが後々知り合い全員の笑いのネタになる。

どれくらいの時間が経っただろう。エルヴィンがソファから立ち上がって壁で腕立て伏せをしてはまた座ってを30回以上繰り返した所でおぎゃあ、おぎゃあと、赤ん坊の声がした。

「スミスさん…!おめでとうございます!どうぞ、中に」

準備をして、分娩室に入るとナマエの横には赤ん坊が寝かせられていた。

「ッナマエ…!」
「エルヴィン…」

精一杯言葉を絞り出す。頑張ったな、ありがとう、嬉しい、もっと気の効いた台詞が言えないものかと、エルヴィンは自分を嘲笑う。まるで世界が変わったみたいだ。たくさんの色がエルヴィン達の世界を暖めた。


「もう、本当、嬉しいよ…ナマエ、あー…泣きそうだ」
「ふふ、泣かないでよ、あたしも泣きそうじゃんかー…」
「ありがとう、愛してる」
「うん、これからもよろしくね。大好き、エルヴィン」


家族3人の頬にこの世で一番やわらかいリップ音が響いた。

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