青い鳥は嘲笑う

「『先の見える人には自分が今行っている事が無駄なのではないかという疑念は無い。今している事が必ず未来に役立つと考えているからである。逆に、先も見えず、何をやったら良いかわからないなどといった最近の若者に多く見られる兆候は、強い自己否定を生み出す。』…まるで、団長と私の事を言っているようですね。」

ぱたり、と、たまたま見つけて読んでいた文献を閉じてナマエは言った。

「君は何をすればいいかわからないなどと落胆している事はないと思うのだが?」
「私は…私の心臓は公に捧げました。だから、兵士として人類の勝利のために戦う、という使命があります。ですが、どうでしょう。仲間が死んで、何故自分だけが生き残ってしまったのだろうと一瞬でも思わざるを得ないのです。私が死ぬべきだったのでは、と。」
「それでも君はその使命を果たすために生き続けなければならない。まあ、私も残酷だと思うよ。人類のためとは言え多くの兵士を犠牲にしてまでも尚、自分が生きているという事に。」

先日行われた壁外調査を終え、2人は休む間もなく報告資料や故人の身辺整理、度重なる会議に追われていた。
疲れているのだろうか、2人とも少し饒舌になっていた。

「人は、死ねばどうなるのでしょうね。私の今あるこの意識はどこへ行くのでしょうか。」
「君はどう思う?」
「私は、我儘なので肉体は消えても、意識だけは持ち続けられたら、と思っています。ただの幽霊みたいで止めといた方が良いのかもしれませんが。まあ死ねばわかりますね。」
「笑っていいものかよくわからないな…。確かに、人は命を落とした後どうなるのだろうとはよく考えるものだ。」
「私は、人類のために死ぬのでしょう。死ぬのは怖いです。でも、死ぬ事よりも、大切な人達の未来に絶望しか残ってない事の方が怖い。誰かのために死ねるのなら本望です。」

例え、予想される多くの犠牲の中に私が入っていたとしても。

「私は、あなたが多くの命を切り捨てている、とは口が裂けても言えません。一番、死んだ者達の命の責任を感じているのは恐らくあなたです。もし、あたしにその命があったとしたら、その重さだけで精神がやられてしまいます。だから、」
「ナマエ、今日はよく喋るね。」
「すみません…。仕事中でしたね。」
「いや、私の方こそ話の腰を折ってすまない。なんて言おうとしたんだい?」

「……自意識過剰とはわかっていますが、言っても怒らないでください。」
「ああ、」
「私が死んだら、私の事は思い出さないでください。最初からいなかったと思ってください。」
「生きた証拠があるのが怖いのかい?」
「誰かにかわいそうだとか申し訳ないとか思われるのが嫌なだけです。」
「私はそんな風に思わないよ。」
「本当に今まで死んだ兵士に対してそう感じていますか?今のあなたには屈強な精神がありますが、それもいつかは崩れ去るかもしれない。私はあなたを人間として見ています。」
「それは、どうも。」
「…人間は生まれた事が罪とか言いますが、死ぬのにも一苦労ですね。」

人間って結局は面倒くさいんですよ。

彼女はそう言った。人間は強くて弱い。そして無慈悲にもこの世に産み落とされたから自らの自由のために戦い、生きる。確かに、面倒かもしれないな、とエルヴィンは笑った。ナマエもエルヴィンもただの人間だ。

「私は君の事は思い出さないようにしよう。面倒くさいからね。」
「…ありがとうございます。」
「だから、」

何故そんな悲しそうな顔をするのか。思い出さないでくれとも、面倒くさいと言ったのも彼女の方なのに。


「私と一緒に死んでくれ。そうすれば思い出さなくて済む。」
「善処します。」

もし団長が死んで、私が生きていたとしたら私は一生あなたを忘れません、とナマエは言った。


ああ、面倒くさい。

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