先輩とあたしの話。

※大学生と大学生ジャーファル


やばいよやばいよーーー!!やばいって思ってるのに文字数が全然増えないよお!!
ゼミ室のパソコンの前で1人、猫背になりながら画面とにらめっこしてもレポートは一切進まない。このレポートが課されている授業はあたしが所属しているゼミのもので、出さない訳にはいかないのだ。しかも他の人にとっては内容がマニアックなのかこのゼミに所属しているのはあたしただ1人。だから余計出さない訳にはいかないのだ。出さなかったら教授に合わせる顔が無くなってしまう。友達は同じゼミの子と、きゃっきゃうふふしながらレポートヤバーイとか言ってるのに、あたしにはそのきゃっきゃうふふする相手もいない。○○ちゃんもやってないから大丈夫〜、なんて保険は一切ないのだ。

「てかこないだ研究手伝ったんだからレポート免除してくれてもいいじゃーんっ!!」
「それだけで単位をもらおうだなんて幼稚にも程がありますね」
「あ!ジャーファルさぁんっ、ちょっと手伝ってくださいよ!」

あ、ちょっと、舌打ちしないで。やります、自分でやりますから。
実は、正式に言うとあたしが所属しているゼミにはもう1人学生がいる。それはたった今ゼミ室のドアを開けてあたしに辛辣な言葉を投げつけたジャーファルさんだ。学部生はあたしだけだけど、この人は大学院生。元は理工学部の人なのだけどこっちにも興味があるからって、去年院生としてあたしのゼミに入ってきた。ちなみにこっちは文系学部でしかもこんな人の居ないゼミに入ってくるなんて相当変わってるけど、(あたしも人のこと言えないのは放って置いてくれたらありがたい)これまたドがつく真面目な人だ。笑えば天使だけど、あたしに対してはちっとも優しくなくて厳しい。でも提出する前のレポートを見てもらって、内容が良かったりすると普通に褒めてくれるから悪い人ではないのかなあとは思っている。

「ジャーファルさん、この資料どういう意味かわからないんですけど…」
「こんなのもわからないんですか…。貴方、私よりこのゼミに所属してる年数長いはずですよね?」
「そんなこと言いながら教えてくれるジャーファルさん尊敬してますありがとうございますアイラブユー」
「感謝の言葉もまともに言えないんですか。どうして貴方みたいな人がこのゼミに入れたんだか」

殺す勢いで投げつけられる言葉達をまるで他人事のように思いながら受け流す。最近このどストレートの辛口がむしろ気持ち良い。この人が言ってることを真に受けてたら今頃登校拒否だよ。でもなんだかんだ資料の説明をしてくれるジャーファルさんをやっぱり悪い人ではないよなあと思う。


しばらくカタカタという音だけが部屋に響いていた。なんか頭回らなくなってきたな…そういえばお腹空いたかも。

「うわっ、これ年数全部間違えてるや…」
「……」
「引用ってどうやって書くんだっけ…」
「……」
「お腹空いたなあ」
「……」
「…ジャーファルさん、お腹空きません?」
「黙ってやれよ!」

なんて理不尽な返しなの。イエスかノーかで答えたらいいだけの話じゃないか。ジャーファルさんと一緒にゼミ室で勉強してても相手にしてくれないからあたしはこのゼミ室を「孤高の城」と呼んでいる。

ジャーファルさんは盛大な溜め息をつきながらキーボードを打つ手を止めて、荷物を漁り始めた。

「…食べますか?昨日作ったカップケーキですけど」
「やったー!突撃隣の晩ごはーん!」
「晩ご飯ではありませんけどね」

ジャーファルさんはお菓子作りが趣味とか言っちゃう系の男性だとあたしは知っている。そりゃ2人しかいないゼミでおいしそうな明らか手作りのお菓子食べられたら、誰が作ったのか気になるわけで、彼女が作ったんですか?今度教授にジャーファルさんに彼女いるって教えてあげよ〜と言ったら自分が作ったんだと声を荒げて暴露されたからだ。教授に弄られるのが嫌だったらしい。何故かご丁寧にラッピングされているカップケーキはかわいらしいデコレーションまでされていた。食べる気満々で「本当に貰っていいんですか?」と礼儀として一応言っておく。

「良いですよ」
「じゃあ休憩しましょう!一緒に食べましょう!」
「私はレポート続けるんで」
「ジャーファルさんコーヒー何がいいですかー?ブラック?カフェラテ?カプチーノ?」
「…カフェラテでお願いします」

飲み会で酔っぱらった先生とクレーンゲームでどっちが先に欲しいものをとれるか賭けて、見事にあたしが勝利した景品として去年買ってもらったバリスタでコーヒーを入れる。ゼミ室で籠っている時に飲むコーヒーって何故かおいしいんだよね。

「はいどうぞ」
「どうも」

ジャーファルさんの横に腰掛けて、鼻歌を歌いながらラッピングを丁寧にほどく。今回はなんたらベーカリーのものを真似て作ってみました、とかなんとか言ってるけどよくわからないので、へえー、すごーい、とかなんとか適当に返しておいた。

「話聞いてます?」
「ひゃーふぁるふぁん!おいひいふぇふほれ!!」
「…それは良かった」

この人天才だ!甘くておいしい。生地もふわふわ。お菓子を分けてくれるジャーファルさんは悪い人っていうかもはや良い人だなあと思う。はあ…こんなもの分けてくれる先輩がいるなんてあたし幸せ者だなあと思いながら口いっぱいに頬張っていると視線を感じたので、眼球を横に動かすとジャーファルさんが嬉しそうに微笑んでこっちを見ていた。思わずあたしがぎょっとしてしまうとジャーファルさんはすぐにハッとなって真顔でコーヒーに口をつけてしまった。しまった。驚かなければもう少し笑った顔が見られたのに。でも笑ってるのなんて珍し過ぎて。少しだけ笑ったジャーファルさんはすごく可愛かった。心臓がドキドキしてほっぺたがぽかぽかする。なんだろうこの胸のときめきは。もしかして…

「恋?!」
「いいえ、ただ餌付けされて喜んでるだけです」
「そんなあ!」
「そのレポートが終わったらこのゼミ室の資料整理を手伝ってもらいますからね」
「嫌ですよ!」
「じゃあもうお菓子はいらないみたいですね」
「やりますやらせてください次はロールケーキが良いな」
「はいはいわかりました」
「わーい!カップケーキもごちそうさまです!あー、レポートやりたくない」
「アンタ留年したいんですか」
「え?嫌ですよ。留年してもジャーファルさん来年いないじゃないですか」
「そうですよ。わざわざ貴方の所に作ったものを持ってきやしませんよ」
「来てくれたらそれはそれで愛されてるなーって思うんですけど。あ、はいわかってますだからそんな目で見ないでください!卒業まで仲良くしてくださいね!お菓子もくださいね!」
「…、仕方ないですね」

そう言ってうっかり素直に笑っちゃったこの先輩を、ジャーファルさんのことをやっぱり好きだなあと思った。

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