こんな世の中だけど

※エルヴィンが喫煙していますので苦手な方はご注意。キャラ崩壊気味。


思っていたよりも戻るのが遅くなってしまった。ハンジの部屋に行って研究資材の予算表をもらってくるはずが、案の定彼女のごったがえした部屋では行方不明になってしまっていて、それがすぐに見つかるはずがなかった。いやー、ごめんごめんなんて思っても無いくせに謝るハンジに、いつかその眼鏡割ってやると思った。本気でだ。もはや発掘に程近い作業を終え駆け足気味になっていると、次は仏頂面して掃除やる気満々オーラがダダ漏れのリヴァイに出くわした。まさかとは思いつつ挨拶をして通り過ぎようとすると悪い予感は当たってしまい、手伝えと言われて先程の件でストレスフルだった私はこっちもこっちで忙しいんだと言い返すと持ってたバケツで殴り殺されかけた。人類最強だからっていつでも人が言うこと聞くと思うなよ!なんて言ってやった気分で泣きながら2部屋分の掃除を終えてやっと今に至る。頼みごとをされていたエルヴィンならこの話をすれば多分笑って許してくれるだろう。


3度ノックをして遅くなったことを謝りながらドアを開くと、ぶわっと白い煙と苦い香りがすごい勢いで顔にかかる。

「ぶわっ!けむたっ…!ちょっ、エルヴィン!?」
「ああ、すまない。戻るの早かったな」

部屋の中は煙草の白い煙が充満していた。主は咥えていた煙草を指にはさむと、机の上の紙束に視線を落したまま、予算表貰ってきてくれたか?と言った。

「早いって頼まれごとしてから5時間は経ってますけど…ってちゃんと換気した!?」
「……」
「私、1時間に1度は換気するように言いましたよね…?」

声音を落とすとやっとこちらを見た。まったくハンジ達と言い、この人もこの人だ。エルヴィンは気まずそうに頬をひと掻きした。

「すまない、こんなに時間が経ってるとは思わなかったんだ」
「没収」
「最後にあと1本だけ…」

吸いすぎだと言ったけれどなんだかんだで許してしまった。彼が煙草をぼんやり吸う所を見られるのはこの部屋の中でだけで、私はそれを見るのが好きだから。私が窓を開け放つと、エルヴィンは隣で煙草に火をつけた。この人が吸う煙草は大人の男性らしい香りがする。居酒屋で吸う香りとは少し違う気がするのだ。そういうとやっぱり誰もが気のせいだと言うのだけれど。

外からの少し冷たい、心地良い風を浴びながら、ここに戻るまでの一連の流れを話して遅くなったのを謝ると、やっぱり苦笑いして気にしないで良いと言ってくれた。

「空気がおいしいな」
「煙草吸いながら言う台詞じゃないよソレ」
「駄目だな。つい作業が詰まると煙草に手が伸びる」
「こんなの商会の令嬢達が目にしたらなんて言うでしょうね」
「どうも言わないさ」

その絶対たる自信に呆れながらエルヴィンを見上げた。エルヴィンは内地に行ったり社交の場に出たりするときは、絶対に煙草を吸わない。1日中吸わなくても平気なんだって。忙しいときにはこんなに吸ってるのによく中毒にならないものだ。

「はいはい、さすが調査兵団の艶男ですねー」
「ははっ、何だそれ」
「知らないんですか?もっぱら内地のマダム達の間で流行してるみたいだけど」
「それは知らなかった」
「リヴァイにこの話したらドン引いてた」
「また俺に対する嫌味のネタになっただろうな」

サラリとそう言って紫煙を吐き出す。トントン、と煙草を揺らすと、ひらひらと灰が落ちていった。本当につれない男だな、エルヴィンは。女と遊びまくってるそこいらの男より性質が悪い気がする。

「さあ、そろそろ休憩も終わりにしよう」
「籠りっぱなしじゃ仕事も進まないんだから、たまにはこうやって休憩しないと」
「ナマエは本当面倒見が良いな」
「エルヴィン達が極端なだけでしょう」
「いいや、良妻になりそうだ」
「相手がいればの話ですけどね」

エルヴィンにそう言われることが、私の心の傷になることを彼は知らない。どうせ脈なんか始めからゼロだってわかってるけどね、辛いものは辛い。

「つれないな、ナマエは」
「その言葉そっくりそのままアンタにお返ししますよ」
「何で怒ってるんだ?」

私の立っていた襟をさりげなく直してくれながら、エルヴィンは私をなだめるように笑って言った。本当にもうこないだパーティに来てたあのでっかくて香水臭いマダムに襲われてしまえ。あ、でもさらっとかわして帰ってきそうだな。それか手玉に取ってきそうだ。腹立つ、なんか腹立つ!

「なんでもないですよ!ほら、ささっと終わらせましょう!」
「あー、ナマエ、なくなってしまったから煙草を買って来てくれないか?」
「もう吸うの禁止ですよ」
「今吸うわけじゃない。好きな菓子を買ってきても良いから」
「……、私にも仕事があるんですけど…」

多めにお金を取り出すエルヴィン。お菓子の誘惑に負けて、嫌々お金を受け取ろうとすると、ひょいと高く手を上げられてしまった。エルヴィンは極めて愉快そうで、それに対して私は極めて怪訝そうだろう。

「残念じゃないのか?」
「何がですか?」
「私が煙草を吸ってる所を見られないから」
「…どういう意味?」
「いつもナマエが煙草を吸ってる私ばかり見ているのは気のせいかな」
「はい!?!?気のせいじゃないですか!?」

そう言いながら、私は差し出された貨幣をエルヴィンの手からぶんどって部屋を後にした。顔から火が出そうだ。自信過剰だとは思わないのかな?!なんであんな人好きになっちゃったんだ!っていうか結局またパシられてるし私!


売り切れだったって嘘をついてお金全部使ってお菓子を買って帰ったら朝まで寝させてもらえなくて(書類整理で)しかもその月の給料減ってた。なんて世知辛い。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -