ひだまりに包まれて

「王様ー?どこにいるんですかー?」

宮廷内に凛とした声が響く。しかし、それは少しだけ困っているようだった。

「もー…、仕事してくださいよおー…」

ナマエはジャーファルと同じように王様に対して頭を抱えた。
ジャーファルは仕事人間だから長時間仕事をする事に対してはあまり抵抗がないようだ。しかしそれはあくまで国の為である。ナマエは国の為であろうとさっさと仕事を終わらせたいと思っているし、誰かさんの所為で終業が遅くなるのもまっぴらだった。だから王様に仕事をさせる、という面で言えばジャーファルとナマエの執念は一致している。
ナマエは重たい溜め息を吐いて中庭へと視線を向けると、緑の中に、鮮やかな赤を見つけた。

綺麗な赤い短髪が、緑の芝生の上でふわふわと揺れている。見つけた瞬間、憂鬱な気分はどこかへ行って、王様探しが優先事項ではなくなった。

「マスルール!」
「…ナマエさん」
「ねえ、マスルール。シン様知らない?また仕事逃げ出しちゃったんだよー、あの人」
「大変っすね」
「そうなの!大変なの!だから癒してよーマスルールゥー」

大変だったのはさっきまでだ。そしてマスルールも大変そうだとはあまり思っていない。王様が仕事を逃げ出すのも、ナマエがこうして自分を相手にしてくるのも日常茶飯事だからだ。

ナマエは寝転がっているマスルールのお腹の上に頭をのせてうつ伏せになった。彼を見上げてあったかいね、と笑う。無駄だとわかっていつつも、やめてくださいよ、とマスルールは言う。

「マスルールの腹筋固くて寝心地悪いよー」
「王様探しはどうしたんすか」
「んー…もうちょっと癒されてから再開する」
「…なんか、お疲れっすね」
「え?そうかな」

別にいつもと変わらないけど、と彼女は不思議そうにマスルールの顔を見上げた。

「そうやって笑ってますけど、無理してるんじゃないすか?」
「そんな事、ないよ。私、王様もジャーファルもマスルールも大好きなの。この国も。だから疲れる時はまああるけど、無理してるとは思わないな」

マスルールがこんな事を言うなんて珍しい。そしてナマエが言ってる事は本当だが、疲れているのは本当だった。敢えて強く言えないように言葉を返され、マスルールはそうか、としかいう事ができない。

「…そうすか」
「ほら、こうしてマスルールが癒してくれるし?」
「…」
「あー!ねえ、ちょっと照れたよね!今!」
「照れてないっす…っちょ、やめてください!」

ナマエは緩みきった笑顔でマスルールの腹筋をホールドし、ぐりぐりと頭を埋める。

「もう!そんな事言って!マスルールかわいい!大好き!」
「…俺、寝ます」

そう言ってマスルールは手の甲を目元にあて、顔を見えないように隠した。ナマエは笑ってじゃあ私も寝る!と、次はマスルールの横に寝転んだ。

しばらくするとマスルールの寝息が聞こえてきて子供みたいだと思わず頬が緩む。かわいいなあ、と彼の額にかかった髪をよけた。

「ありがと、マスルール」

いつもいつも彼をいじくりまわしてしまう。なのに、自分をよく見ていてくれて、言葉少なでも心配してくれるマスルールは優しい。べったべたに甘えられたらどれだけ良いだろう。

もう少しだけ休憩したら王様を探そう、重たくなってしまった瞼を閉じた。



「もう!シンの所為ですよ!ナマエが見つからないのは!」
「スミマセン……でももう探さなくて大丈夫みたいだ」
「何言ってるんですか…!」
「シー…」

立てた人差し指を口元に添えてシンドバッドは中庭を指差した。

「…かわいいな。よく寝てる」
「…ええ、起こすのが可哀想なくらいに」

ナマエとマスルールはさすがのジャーファルもそう言うほど、気持ち良さそうに、寄り添って眠っていた。

「仕方が無いですね。ナマエの分までお仕事頑張ってください」
「しょうがないなー!2人に癒されたから頑張るかー!」
「シンがそんな事を言うなんて珍しいですね」

クスクスとジャーファルが笑うと、同じように風が吹いた。暖かな太陽が彼らを柔らかく包み込む時間。

綺麗な赤い短髪と、ナマエの艶やかな髪が心地よさそうに揺れた。

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