やわらかく灯る

※大学生と大学生火神


「っはああ…」


うちのゼミの教授と仲の良い教授のゼミと合同の飲み会は、戦場のようだ。


笑い声、叫び声、グラスの倒れる音。
酔っ払ってわいわいと騒いでいるのが一段と目立つのはうちの団体だろう。早々にドロップアウトしたゼミの友人を2人ほど見つけてしまい、介抱を続けていたら飲むタイミングも、輪の中に入るタイミングもなくなってしまった。

一段落ついた所で盛大に溜め息を吐きながら、トイレ前の壁に背中を預けた。正直疲れた。

こういうのは誰も責められない。誰かが悪いとかは無いけれど、一般的には酔っ払わなかった人は大抵損した気分になる。あまり大勢で飲むのが好きってわけじゃないからあたしは大して気にしないのだけれど。


「おい、大丈夫か?」

隣の男子トイレに目を向けると同じように介抱しているのだろう火神くんが出てきたところだった。

「あ、多分もうほとんど出しきってたから大丈夫じゃないかな?」
「ちげえよ、お前の方」

火神くんはあたしと同じように壁に背を預けて、軽く息を吐いた。火神くんとは別のゼミだけど、1回生の時に同じ講義を受けていたので何度か話したことがあるし、あいさつを交わすくらいの仲ではある。

「うん。こんなに介抱したの初めてだけど、大丈夫だよ」
「頑張ってたな、」
「ううん、そんな事ないよ。こういうのって持ちつ持たれつだしさ」
「まあ、そうだな。でも全然飲んでねえだろ、飲んで来いよ。俺、ついでに見とくし。どうせもう少し出てくるまで時間かかるぜ、あの酔い方は。」
「いいの、いいの。もうお酒はいらないかな。…そっか、火神くん、バスケ部だからこういうの慣れてそう」

慣れた感じの物言いに、なんとなく運動部は飲み会が激しそうだと言うイメージがあったのでついそんな事を口にしてしまった。若干失礼だったかな。火神くんがいるバスケ部って結構強いみたいだし。

「まあ、たまにあるけどよ」

そこまでひどくねえぜ、と頬を掻きながら火神くんは言った。

そう言えば久々に話すな、とかお前のとこのゼミの飲み会っていっつもこうなのか?とか、あたしがあまりにも疲れた顔をしていたのか彼はいろいろ話しかけてくれた。火神くんが気を使ってるのを感じて、あたしも笑顔は崩さない。でも、素直にこの状況から少しでも気を紛らわせられることが嬉しかったから、自然と表情が緩んでしまう。彼のおかげだ。


「ごめんごめーん!大丈夫?あとはこっちに任せといて飲んでおいで!」
「あ、」

中で飲んでいた子達が数人出てきた。戻ってもなあ…と思って大丈夫、と口にしようとする。

「おー、サンキュー。ほら、行こうぜ」
「え?」
「え?って飲むんだろ。」
「でも…」
「いらないとか言ってたけど飲めるだろ」
「潰れてる子心配だし、」
「あいつらが見てくれるって言ってんだから、今のうちに飲んどかないともったいねえぞ」
「うん…」

正直素面で戻っても騒ぐ元気が残って無い。どうせ中に戻って火神くんと離れたら、あの雰囲気の中で話せる人が居ない気がして、ちょっと微妙な顔をしてしまった。そんなあたしの肩を火神くんは微笑みながら叩いた。


「お前とまだいろいろ話してえんだ。だから、付き合えよ」

嫌だ、とか寂しいこと言うなよ


そう言ってくれたのが意外で、思わず頷いてしまった。1人で寂しく飲む必要が無いからなのもあるけど、火神くんだから嬉しい。あたし、火神くんともっと仲良くなりたい。

「俺、今ジンジャーハイ飲みてえな」

火神くん、あたしも今同じこと思ってた。口には出さなかったけど頬が緩んでしまうのを隠せない。

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