どっちもどっち

しまった…!!!


そう思った時には既に時遅し。
何故気付かなかったんだ…!自分の馬鹿…!こんなにでかいジャージを何故カバンに詰める時おかしいなと思わなかったんだろう!多分あっちはあっちであたしのジャージを持っているだろう…。今更こっそり交換なんてできないし、何より皆には知られたくない。
火神、と刺繍されているそのジャージを見た瞬間、黒子くんもびっくりの速さでそれを着替えの中に突っ込んだ。

「ナマエ、ジャージは?着ないと寒いよ?」
「え?あ、う、うん。ちょっと寒さに耐えて免疫力でもつけようかなーなんて…あは、あははは…」

く!そ!

相手を恨んだって仕方がないあたしのミスだ。突然、大我ー、間違えちゃって大我のジャージ持ってきちゃった!なんて言えるか!もし、え?なんで火神くんと…!?って言われたってあたしだってわかんないよ!なんで幼馴染と同居してるかなんて…!


さすがにジャージを着ないと寒いのに、よりにもよって体育の時間はグラウンドの日だ。半袖で外に出ている女子なんて自分しかいない。ふと、同じように外に出てきた男子達を見ると、同じように半袖の大我が居た。はあ…と重たい溜め息を吐く。両腕を手でさすって鳥肌を収めようとした。

「ナマエ」
「…え?うわあ!大我?!」
「悪ぃ、間違えてナマエのジャージ持ってきてた」
「っば!ばか!ここで渡すなばか!あほたれ!」
「はあ?!人が親切に持って来てやったのになんだよそれ!」
「誰も持ってきて欲しいとか頼んで無いし!そう言うのなんて言うか知ってる?!ありがた迷惑って言うんだよ!その小さい脳味噌に刻んどけ!」
「っんだと…!?」


彼にとって難しい日本語だったのか何も言い返せない大我に勝ち誇った気分でいると、まわりからこそこそと好奇の視線とささやきが聞こえてきたのに気がついた。


「火神くんとナマエちゃんって付き合ってるの…?」
「え?でも付き合っててお互いのジャージ間違えて持ってきたりするか…?」
「まさか…同棲…?」

本日2度目のやってしまったという衝撃が体を走って変な汗が吹き出す。どんな言い訳がベストか、と言う事を黒子くんのパスもびっくりする速さで考える。だけど好奇の視線がそれを紛らわせた。

「火神くんってナマエと一緒に暮らしてたりするのー?」

面白半分で投げかけられた質問に大我はこれまたごく自然に、おう、と言った。

…お、おう…?

「バカか!あたし言ったじゃん!一緒に住んでるのバレないようにしたいって!覚えてないのか!お前の脳味噌は3歩歩いたら忘れる鶏か!!ああもう!!」

頭を抱えると聞こえてきたのはザワザワと大きくなる周りの声。…3度目のしまった、だ。

「だってよ…」

しゅん、と怒られた大型犬みたいにへこたれる大我。だまされない、だまされないぞ。こうやっていつも喧嘩する度に丸めこまれて有耶無耶にされて自分を責めるのをあたしはさすがにもう学ぼうと心に決めているのだ。

「家出たいって俺んち転がり込んできたのお前だろ…」
「うっ…それは…」
「しょうがないから俺が親父さん達に頭下げに行ったの知らねえくせに」
「え、そだったの…」


知らなかった…。もはや何も言えない。あたし大我にはすごくお世話になってる。ご飯も部活で疲れてるのに作ってもらうし、あたしも大我も気が短くて喧嘩ばかりだけどいつも大我が折れてくれるのだ。…あたし、愛想尽かされて追い出されちゃうかもしれない。

「ごめん、なさい、大我…」
「謝って欲しい訳じゃねえよ」

なんでこんな事今言ったかわかるか?
わからなくて、頭2つ分くらい上にある彼の顔を見上げた。

「出ていきたいとか言うなよ。お前と一緒に居てえんだからさ。別にいいじゃねえか一緒に暮らすくらい」

幼馴染なんだしよ、と照れくさそうに頭を掻きながら目を反らす。こう、たまに素直になるとちょっとアメリカンな感じにストレートだなと思う。うん、ありがとう大我。あたしもなんだかんだ君との生活は楽しいし好きだよ。


でも、

…今ここでするような会話じゃないね。



きゃあきゃあひゅーひゅーとはやしたてるたくさんの声。ありがとうとかその他諸々は家に帰って伝えるとして、今は、鳩尾を殴ってジャージをその手から奪い取った。


(とっても仲が良い幼馴染って事にしといてください。)

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