痛い痛い痛い

(って言わせたかっただけのお話)


「夜、俺の部屋においで」


女遊びが大好きな彼独特の冗談だとわかっていつつも、すれ違い様にそう言われて性懲りも無く顔に熱が上る。仕方が無いのだ。この王様は生粋の人たらしなんだから。格好良いなって思うし、その長い夜色の髪も、真っ直ぐで明るい瞳にも見惚れてしまう。手遅れになってしまう前にあしらっておくのが、せめてもの予防線だ。

シンドバッドは人をおちょくるように笑いながら顔が赤いぞ、とあたしの頭をその筋張った大きな手で撫でる。

「ジャーファルさーん!シンドバッドさんがセクハラしてきまーす!!」
「っちょ、オイ!大きい声出すなよ!しかもセクハラじゃないだろ!!」
「存在がセクハラみたいなものですよ」
「言葉の暴力って知ってるか…?」
「だいたいなんであたしなんか…」

こんな事言っても仕方ないか、と途中で諦めた。ああ、ふてくされるなんて馬鹿だ。悔しいからあとでジャーファルさんに愚痴ろう。あの人はあたしの味方だ。
表情を隠せていないのだろう。あたしの拗ねた顔を見てシンドバッドはまた笑った。そしてあたしの腕を引いてその胸に収める。

「っちょ、シン!ここ!廊下!人…!」
「何を今さら」
「やめてくださいその誤解を呼ぶ言葉…!」

シンドバッドは笑うのを止めてあたしの耳元に顔を寄せた。シンの髪があたしの耳や頬にかかると、かあっと耳元が赤くなる。

「お前が欲しかったから無理矢理でもここに連れてきたし、今も…半ば無理矢理俺に着いて来てもらってる。でもそれは他の仲間も同じだ。なんだろうな、お前は独り占めしたいって言うか…」
「な、何…それ…」

なんて我儘な王様だ。酒好きで女遊びが絶えなくて、でも皆の信頼を欲しいままにして、挙句の果てには独り占めしたい、か。

「無理矢理なんかじゃない。確かにここに連れてこられたのは…無理矢理だったけど、今はシンを信じてるから、あたしの意思で着いていってるの」

そんな王様が大切で、共にしたいと思ってるのはあたし自身なのだ。大勢の中の一に過ぎないけれど、多くを見せてくれた彼には感謝しているから、憎めない。シンの思うつぼだとわかっていても。

素直に思ったままを告げると、彼は嬉しそうにあたしを抱きしめたまま体を左右に揺さぶった。

「どうした!やけに素直だな!そういう所も可愛いぞ!好きだ!」
「痛い!痛い痛い痛い…!ちょっ、離して!金属器が!頭に刺さってる!」

シンドバッドの胸に掛けられている金属器がちょうどあたしの額に当たる。痛いと言っても離す所かぐりぐりと頭を胸に押し付けられた。彼の匂いと腕の熱にやられてしまわないよう叫ぶので精一杯だ。


そんなあたし達を見て、遊んでいるのだろうと思った宮廷内の人達は笑いながらただただ通り過ぎていくだけだった。離せよ!と彼の鳩尾に拳をお見舞いするのはあと数秒後のお話。

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