トパゾスの輝き

「あああ、あの…だっ、団長?」
「なんだい、ナマエ。」
「私、コーヒー淹れて来ますね?」
「ああ、」
「だから、手を…ドアから離してくださらないと…」
「そうだね。」
「えっと…なんであたしの腰に腕がまわされているのでしょうか…」

エルヴィンの腕が彼女の腰にまわった所でナマエは恥ずかしさや緊張でどっと身体が熱くなった。



「ナマエ、戻ったよ。」
「あ、エルヴィン団長、おかえりなさい。」

そう言って内地での会議から戻ってきたエルヴィンをナマエは笑顔で出迎えた。

「いいなぁー!エルヴィンは!こんなに癒される補佐がいて!」
「ははは、癒されますかね…?」

共にエルヴィンと戻ってきたハンジは唇を突き出して、ずるい!と呟いた。

「ああ!癒されるとも!ナマエ、なんなら私の隊に来ない?研究に協力してくれない!?」
「えと、壁外で死ぬならまだしも、まだ死に急ぎたくないっていうか…」
「ナマエは私の隊に来たくないって言うの!?」
「ああ、違います、いや、団長補佐はとても名誉な事ですし…でも、ハンジさんは好きですよ?」
「!、ナマエーっ!かわいいなあっ!」

そう言うとハンジはナマエに抱きついた。抱きつかれたナマエにエルヴィンは目を向けたが、彼女は困った笑顔で成されるがままだった。

「ハンジ、あまりナマエを困らせないでやってくれよ。」
「何さ、エルヴィンってなんだかんだナマエに関しては過保護だよね。」
「大事な補佐だからね。」

エルヴィンが大事な補佐と言う本人をハンジは腕から離し、目線を下ろした。団長様の補佐はその言葉を聞いて、まるで少女の様に頬を染めていた。ナマエは誰に対しても優しいし、笑顔だが、この表情はエルヴィンに関係しているときにしか見られない。

「さぁ、仕事が残っているんだ。ハンジ、この間の報告書はまだか?」
「う…それは、これからだよ…」
「あら、ハンジさん!それ一昨日までじゃなかったですか?」
「…わかったわかった!するよ!私は邪魔者みたいですしね!」

その言葉にまたナマエは顔を紅くしていた。壁外では、あんなにしっかりとしているのに、壁内での彼女の反応は本当に初々しい。この調査兵団と言う変人の巣窟の中で、それがまた彼女に自分達が惹きつけられる原因かな、とハンジは思った。じゃあごゆっくり、とハンジはドアを開け執務室へと戻って行った、のもつかの間、次はリヴァイが何枚かの紙を手にノックもなく入ってきた。

「ナマエ、この間言ってたやつだ。」
「あ、お疲れ様です、兵長。これですね、ありがとうございます。まとめておかなきゃ。…あれ、この間のファイルどこにしまったっけ?」
「…上の段の左から五冊目だ。」
「わ、兵長よくご存知ですね!補佐失格だなあ…」

報告書や資料が詰められたファイルが並ぶ棚の前でナマエは忙しなく動いていた。

「…補佐だからってコキ使われてねぇか?」

人類最強の兵士は仕事こそ(主に掃除)厳しいが、ナマエはよく働くことを知っており、ナマエの人当たりの良さと、仕事の出来具合は評価していた。

「そんな事ないですよ!寧ろ団長はお忙しいですからこれくらいしないと補佐は務まりません。」
「そうか。」
「私が居るのに、わざわざ報告書をナマエに出すかな、リヴァイ。」
「…大したもんじゃなかったからな。仕事に戻る。」

エルヴィンは軽く笑みを浮かべていたが、その表情から読み取れるものはナマエが関係しているときのものだとリヴァイは思った。いつもは多くの部下に信頼され、この調査兵団を統括するエルヴィンも人の子か、などとぼんやり考え、今日の会議に対して小言を言われる前にリヴァイは部屋を後にした。

「さて、と、団長は少し休憩なさってください。」
「ありがとう、大丈夫だよ。…ナマエ、仕事は大変過ぎないか?」

エルヴィンは先程のリヴァイの言葉を気にしていた。

「決して。団長のお役に立てているなら本望ですし、あなたは忙し過ぎますから。あたしは意外と内勤も好きなんですよ。」

ナマエはニコニコと笑顔を浮かべていた。彼女は誠実であり、とても明るい。その明るさが兵団の中での不穏な空気を取り払ってくれる。その笑顔を自分だけに浮かべて欲しいとエルヴィンは思うのだ。彼女の社交性故にそれは難しい。どうしたらいいのか、強引にでも手にいれてしまおうかと子どもじみた感情が浮かんだ。

「団長、コーヒー淹れて来ますね。」

ナマエはまた笑顔でエルヴィンに告げた。
ナマエのすぐ背後にいたエルヴィンは手を伸ばし開けかけられたドアを閉めようとした。彼女を手に入れたいという想いが脳味噌を伝う前に筋肉に伝わった。


そして冒頭に戻る。


「だ、団長…?」
「ナマエ、」
「はい?」
「ナマエには感謝しているよ。よく働いてくれる。」
「あっありがとうございます…」
「でも、他の感情も持ってはいけないかい?」
「え?」
「こんな歳になって、こんなこと言うのも笑えるが、君は誰にでも優しい。でもそれを独り占めしたいんだよ。時々ハンジやリヴァイが君を連れてってしまうんじゃないかと思う。」
「あたし、は、どこも行きませんよ…?」
「本当だね?」
「は、はい…」

ナマエは完全にエルヴィンに背後から抱き締められていた。ナマエが抵抗しないのは、彼が上司で抵抗できないからか、嫌じゃないからか。

「あ、あの…」
「ナマエ、好きだよ。」
「…」
「ナマエ…?嫌だったかい?」

嫌だったら嫌でそれはショックだが。ナマエは固まってしまっていた。どうしたらいいものか。

「ナマエ、こっち向い…!」

彼がナマエの顔を見ようと身体をこちらに向けさせたとき、彼女の瞳には今にも溢れそうなほど涙が浮かんでいたのを見た。

「、すまない、ナマエ…」
「!ちがうんです…。う、うれしくて…」

ナマエは諦めていたと言う。調査兵団に入って、まさか自分が団長補佐に選ばれるとは。エルヴィンが憧れの対象だったからだ。それが毎日側にいれば好きという感情に変わってしまった。しかし、彼は調査兵団団長。この感情は心に閉まっておかなければ、と勝手に蓋を閉じたのだ。
それを聞いてエルヴィンは正面からナマエを抱き締めた。

「良いんだ、私もナマエを手に入れたいと思ったから。」
「仕事だって団長補佐だからがんばれるんです…」
「そうか。」

エルヴィンはナマエの頭に顎を乗せ、彼女の髪を撫でながら、泣き止むのを待った。柔らかい時間だった。


「好きだ、ナマエ」
「あたしもすき、です。」


そうやって、彼は欲しくてたまらなかった彼女と、彼女の笑顔を手に入れたのだった。

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