シブリングスブルー

※妹と兄ジャン


「おい、ナマエ何やってんだよ。待ってても来ねぇし。」
「あ、ごめんお兄ちゃん。課題提出さなくちゃいけなくて…」
「はぁ?やってなかったのかよ…。」

あたしとジャンくんは、兄妹である。年子でジャンくんの方が1つ学年が上。お互い用事がない限りいつも一緒に登下校するのだけど、あたしは数学の課題を忘れていて居残りを食らってしまっていた。しょうがねェな、と言ってお兄ちゃんはあたしの前の席に逆向きに座った。

「お前数学苦手だろ。進んでんのか?」
「あー…ううん…」
「…こんなん簡単じゃねぇか。ほら、さっさと済ませて帰るぞ」
「うん。教えてくれんの?ジャンくん」
「先帰っていいのか?」
「やだ!教えて!」
「はいはい。」

お兄ちゃんは小さく笑ってあたしの頭を撫でた。それがとても嬉しくて。放課後に教室で2人で課題するって、何だか恋人みたいだなあと思う。頭の中で思うだけなら誰にも迷惑かけない。あたしがお兄ちゃんをお兄ちゃんって呼んだりジャンくんって呼んだりするのは、ずっと昔からで、何でかって言うと、あたしがずっとずっと前からお兄ちゃんを好きだったから。名前を呼べば兄妹の壁も少しはなくなるかなって。だけどあたし達はただの兄妹で、それを超えることは死んでも有り得ないのだ。

「お兄ちゃんっていっつもあたしと帰るけど、彼女いないの…?」
「あ?…いたらお前となんか帰らねぇよ。」
「なんか、って失礼な!」
「お前も彼氏の1人や2人作ってそいつと帰れるようになれよ。」
「えー。ジャンくん、あたしがいないと寂しいでしょ?」
「んなわけねぇよ。」

素っ気なくあっさりとそう返されてしまった。そう反応されることはいつものことだけど、話題が話題なだけに少しだけ、チクリと胸が痛む。

「…好きな人とか、いないの?」

自分が傷付くってわかってても、今が聞くタイミングだと思った。でも気になってしまんだから仕方ない。

「…お前なあ、余計なこと言ってる暇があれば手を動かせ、手を」
「あー!いるんだ!」
「う、うるせえな!いねぇよ!」
「ウソだ。顔赤いもん。いるんでしょ?誰?教えてよ!」
「は?やだよ!」
「やだってことはいるんだー!」
「あ、」

ジャンくんはしまった、というような顔をして、違う、いねぇよ、と言った。でもわかるんだよ。ジャンくん、好きな人がいるんだ。兄妹なんだから反応見たらわかるよ。年頃だし、あたしにだって好きな人がいるんだもの。…普通のことだよ。

「あはは、大丈夫だよ。お母さんに言ったりしないし!」
「なんでそこで母さんが出てくるんだよ!」
「2人のひみつね」
「なんでテンション下がってんだよ」
「別に下がってないよー…」

さすがお兄ちゃん。あたしのことよくわかるね。無理に元気をだそうと思ってもできない。顔を赤らめて視線をずらすお兄ちゃんは誰を想っているんだろう。今この瞬間に、その人のことが頭に浮かんでるんだ。ああ、バカだ。自分で聞いたくせに悲しくなって泣きそうだ。涙が滲むのを見られないように、少しだけ視線を落とす。

「…お前は好きなやついねぇの?」
「うーん…どうだろう…ひみつ」
「いるかいねぇかくらい教えろよ。俺も教えたんだし」
「やーだー!別にあたしのなんて知りたくないでしょ!」
「人の聞いといて自分の言わねぇとか、こいつ…!!」
「いっ、いだいいだいいだいっ…!!」

ジャンくんはいたずらにあたしの頬をつねった。おかげでさっき浮かんだ涙は、この所為にできそう。ジャンくんは割と本気でつねってきて本当に痛い。

「知りたくないとかじゃねぇよ」
「へ?」

ジャンくんにつねられて赤くなった頬を押さえる。ジャンくんは顔を赤くしたままあたしを睨んだ。そんなに怒らなくてもいいのに…

「お前気づかねえの?」
「は?なにを?」
「この歳になっても兄妹が一緒に学校行って帰るっておかしいって思わねぇのかよ。」
「な、に…?嫌なの?」
「嫌がってるように見えるか?」
「も、もうなにさ。」

ジャンくんは頬を押さえていたあたしの手首を掴んだ。その、途端に真剣になった瞳にはあたしが映っている。掴まれた腕が熱くて、身動きができない。あたしはそのままジャンくんの動きをぼーっと眺めていた。



「え、えええっ!お、お兄ちゃん…!?」
「…俺、先帰るわ」
「あ、え…待って!」



お兄ちゃんはそのまま帰ってしまった。最後に見えたのは、お兄ちゃんの真っ赤に染まった耳で。お兄ちゃんのこと好きでいいの?この止まらないドキドキはどうしたらいいの?


よくわからないよ。夕陽が傾いてオレンジ色に染まる教室であたしは頭の中を整理するので精一杯だった。


お兄ちゃんがキスをしたあたしの手首を押さえて

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