サマーパラダイス

「ベルトルト!ごめんね遅くなっちゃった」
「いいよ、ナマエ。ほら、乗って」

そう言ってベルトルトは自転車の後ろを振り返った。荷物をかごに入れてもらって後ろに乗る。坂道の上にあるあたしの家までこの暑い中迎えに来てくれたベルトルトは汗をかいていた。



海、行こっか


そう、ベルトルトが珍しく提案してくれたものだから、嬉しくて準備に時間がかかってしまった。昼過ぎの1番暑い時間にベルトルトを待たせてしまって少し落ち込んだけど、ベルトルトは優しく笑って許してくれた。

「良かったね!天気良くて!」
「はは、暑すぎるのはちょっときついけど…」
「あ…ごめんね。辛くなったら言ってね、降りるから」
「それくらいは大丈夫だよ。じゃないとこんなに図体が大きい意味がないし…」
「がんばれベルトルトー!」

本当に空は真っ青で夏特有の入道雲が浮かんでいる。少し自転車を漕いだら車の少ない海沿いの長い長い坂道をどんどん下っていく。蝉がミーンミーンと鳴いて、夏だな、と当たり前の事が頭に浮かんだ。

「落ちないでね!ナマエ!」
「はーい!」
「僕にちゃんと掴まっててよ!」
「大丈夫だってばー!」

そう言って彼の着ているシャツを軽く掴んだ。通り過ぎる風の音に負けないように2人で大きな声を出す。

「着いたー!」
「ナマエの家から結構すぐだったね。」
「近いからね!海でデートなんて新鮮だあ!」


2人で砂浜を歩いてこの辺に座ろうか、と持ってきたシートを広げた。休日と言ってもまだ夏休みに入っていないからか、人が少ない。

「泳ぐ?」
「ベルトルトは?」
「ナマエが泳ぐなら」
「あたしもベルトルトが泳ぐなら」
「どうする?」
「泳ぐ?」
「そうしよっか」
「うん」

2人ともはっきりしないよな、とライナーによく言われるのはこういう会話が多いからだ。でも、あたし達2人のペースがあって、同じペースだから居心地が良いんだけどなあ、とこういう会話があった時はいつもそう思う。
少し恥ずかしいけど下に着てきた水着になる。ベルトルトも水着を着ていて、上半身が裸なのは水着だから当たり前なのに、ドキドキは隠せなかった。

「かわいい、ナマエ」
「あ、ありがと…」

少し泳いだり、子供みたいに砂でお城を作ったりして遊んだ。ベタに2人の名前を砂浜に書いたりもした。



あっという間に時間が過ぎて、陽が沈んできた。太陽が水平線を沈む所を見ないと勿体ないね、と着替えてから海辺のブロックに2人で座る。

「見て見て、太陽がだるまみたいになってる」
「本当だ、きれい」
「うん、天気が良かったから、きれいに見えるんだよ」
「そうなんだ…ねえ、ナマエ、手繋ごう?」
「うん…」

改めて口にされると恥ずかしい。手を繋いで夕陽を見るなんてどんだけロマンチックなんだ。

「ロマンチックすぎるって思ったでしょ」
「うん、なんでわかったの」
「僕もそう思ったから。ちょっと恥ずかしいね」
「ふふ、恥ずかしいね」

同じ事を考えてたなんて嬉しくてにこにこしてしまう。ふとベルトルトの手があたしの頬に添えられて、顔は彼の方に向けられる。…あ、キスするんだな、と思ったら、触れるだけの優しいキスをしてくれた。

「好きだよ、ナマエ」
「あ、あたしも…」
「はは、ベタすぎた?」
「う、うん…ロマンチックすぎて恥ずかしい…」

そう言うとまたあたしの顔には彼の影が落ちてきた。



幸せだった。



「っていう夢を見たの!」
「ナマエ、自転車とか海って何?あんまり想像つかないんだけど…」

その晩に見た夢を朝食の時にベルトルトに嬉々と話したけど、ベルトルトの反応はイマイチだった。ライナーが、お前朝から元気だな、と言ったけど、とっても良い夢だったからついつい声高に話してしまう。あたしも自転車とか海とかはっきりと覚えていなかったけど一生懸命説明する。

「海って壁の外にあるって聞いた事があるの!おっきくてしょっぱい水溜まりだって!」
「へえ、どんなのだろう」
「夢で見たのは本当にきれいだった!」
「ナマエ、その海っていうの、行きたい?」
「うん!ベルトルトと一緒に行きたい!いつか絶対!」

熱く語ると、ベルトルトは優しく笑って頭を撫でてくれた。

「ナマエ、」
「ん?」



「海、行こっか」



夢のかけらをかき集めたって、あの夏に戻れはしない。だけどいつか一緒に見つけに行くんだ、と2人だけで誓った。

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