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自分はいつか必ず故郷に帰る。ベルトルトとアニと。そう決めている。だからあいつを想う気持ちは切り捨てる事ができなくても、胸の内に秘めておけば良い。


ライナーは彼女を見る度にそう考えていた。雨の中での立体機動訓練中、雨に濡れた木の幹に滑って着地に失敗したナマエを見つけたのは幸か不幸か。

「痛ぁっ…」
「大丈夫か!ナマエ!!」
「ライナー!大丈夫だから訓練続けてて!」
「嘘吐くな。お前、立ちあがれんのか?」
「え、大丈夫だよ。ホラ、…あ」

力を入れても足を挫いたせいで神経が繋がっていないかのように力が入らない。ナマエは苦笑いでライナーを見上げた。

「えと、もうちょっとしたら立てるから…」
「黙っとけ、ここじゃなくてどこか雨宿りできる所に行くぞ」

そう言ってライナーはナマエを抱え上げた。俗に言う、お姫様抱っこだ。

「ちょ、ちょちょっ!歩けるから!肩貸してくれたら歩けるから!」
「良いから。」

ナマエの顔は真っ赤に染まっていた。これだから、ライナーは自分の気持ちが切り捨てられないのだと思った。ナマエが嫌がってでもこうしたい。自分のエゴだ。

巨大樹の縦に切り開かれた窪みを見つけ、2人でそこに入る。

「足見せろ」
「大丈夫だってば。訓練が終わったらちゃんと冷やすから。」
「ダメだ、今固定しとかないと」

ライナーは厳しいなあ…と言いながらナマエはブーツを脱ぎ足を出した。
手短な布でナマエの足をきつく縛る。訓練のおかげで筋肉が付こうとしているナマエの足は細く、綺麗だった。

ライナーは気づかれない程度に足に軽く触れて手を離す。

「ありがとライナー。立てるようになったら行くからもう訓練戻って。申し訳ないから。」
「大したことない。立てるようになるまでここに居てやるから」
「はは、さすが頼れるお兄さんだね…でもあたしにはこういう事しない方がいいよ。勘違いしちゃう。」

ライナーはナマエの顔を見た。彼女の顔は雨に濡れて青くなるどころか熱を帯びているようだった。雨に濡れた髪や、ほのかに染まる頬、濡れた服、少し歪められた表情…ライナーは余計な事を考えては駄目だ、と自分に言い聞かせる。

「もう行って!じゃなきゃ心臓が持たないよ…」
「ナマエ…」

衝動的にライナーはナマエを壁に押し付けその頬に手を添えた。駄目だ、駄目だ、と思うと同時に彼女を想う気持ちが波のように押し寄せる。自分は今何をしようとしているのか。


2人の距離は徐々に近づき、ナマエは瞳を閉じた。


これで良いのか。

彼の脳裏には同じ故郷で育った2人の顔が浮かんだ。駄目だ。

「すまん、ナマエ…」

ライナーはナマエから、一度は口づけようとしたその顔から離れる。ナマエは小さく笑ってライナーの胸に両腕を突き付けた。ナマエは首を下にもたげてその表情は見えなくなる。

「だめだよ、ライナー。好きでもない子にこんなことしちゃ。」
「ナマエ…」
「もう止めてよっ…思わせ振りな事しないで!!」

いつも明るくて怒りを露わにした事などないナマエのその瞳には涙が浮かんでいた。

どうして目の前にいるのに手に入らないのか。
自分は故郷に帰る。駄々をこねる子供のようにずっとそればかり考えてきた。でも、切り離したくない。1度で良いから手に入れたい。自分は子供だ。だからやっぱり欲しいものは手に入れる。

「ナマエ…!」
「ゃっ…」

ライナーはナマエの腕を引き、無理やりナマエに口づけた。抵抗するナマエの腰を押さえ込み背中を撫でる。やがて唇を離し、ナマエの顔を見ると彼女は眉根を寄せ、彼を睨んだ。

「俺の事、嫌っていい。でも俺は…離したくない」
「ここまでしたんだからちゃんと言ってよ…!」
「好きだ、ナマエ」

気の迷いで言ったんなら許さないから、とナマエは言った。



もう一度ナマエを抱きしめれば、気の迷いじゃないという事を証明できるだろうか。
もうどうなってもいい。それは故郷に帰る時も同じように思うのだ、きっと。

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