君を、見ていた

※大学生と大学生ライナー


隣に座った彼を見て、心臓がトクンと高鳴った。ああ、やっぱりかっこいいな、なんて話した事もない彼を気づかれないようにこっそり見つめる。名前、なんて言うのかな。あいにく話しかける勇気なんて持ち合わせていない。


5限が終わったら近くにできたご飯屋さんに行きましょう!と、食い意地の張った友人がそう言うものだから、あたしは5限は空きコマだったので学内にあるカフェテリアで友人であるサシャの授業が終わるまで時間を潰していた。まさか、彼とここで会うなんて思いもせずに。


隣に座った彼と出会ったのは図書館だった。最近になってから締め切りや発表に追われる事が多くなり、レポートや資料作成のために毎日と言っていいほどあたしは図書館に通い詰めていた。パソコンの電源を入れて、文献を探しに行く。本棚と本棚の間には1人掛け用のソファが置いてあって、あたしが彼を見つけたのもそこだった。真剣に本を読むその姿が何故だか頭から離れなくて、俗に言う一目惚れってやつだったのかもしれない。彼はあたしが図書館に行けばいつもそこに座って本を読んでいた。
その内、今日もいるかな、なんて頻繁に図書館に行って、用もないのに文献を探すフリをして彼の目の前を通ったりしていた。

「あの、」

何ともないかのようにケータイをいじっていたあたしに突然隣から声が掛けられる。

「へ、」
「間違ってたら、すまない。よく図書館に行ってるか?」
「あ、えと、一応…。」
「コレ、多分アンタだよな。図書館に落ちてた。学務に落とし物で出そうと思ったけど、よく図書館で見かけるから持ってた方が早く返せると思って。」

そう言って彼が差し出したのは、あたしの学生証だった。それは図書を借りるのに必要なもので、最近本は借りずにそのまま返していたから、全然なくしていた事なんかに気が付かなかった。学生証に写っているあたしのまぬけな写真を見られたのは恥ずかしい事この上ないが。

「すまない、勝手に持ってて。」
「あ、いいんです。大事なものですし、わざわざ拾ってくださってありがとうございました!」
「同じ学科なんだけど、俺の事知ってるか?」
「え?同じ学科…?」
「ああ、学年も一緒。」
「うそ、知らなかった…。図書館ではよく見かけてたんですけど。あ、」

よく見かけていた、なんてまるで前からあなたを見ていましたよ、とでも言っているようで恥ずかしくなった。でも、彼もさっきあたしをよく見かけていると言っていたような。隣に座っている彼をもう一度見上げた。

「ライナー・ブラウンだ。よろしくな。」

あたしも同じように名乗ると、学生証見たから知ってる、とライナーくんは微笑んだ。彼と話していると同じ学科だという事で読んでいる本も似通っていて、話が弾んだ。そうすると先生の愚痴や、レポートのわからない所まで話せるようになっていた。

惜しくも5限が終わるチャイムの音がする。そろそろサシャがカフェテリアに来るだろう。惜しいけれど長々と話しをしていても彼の迷惑かもしれないとあたしは思った。

「じゃあ、そろそろ行くわ。」
「あ、うん。ありがとね。」
「おう…前からアンタの事よく見かけてたって言ったけど、アンタに会えると思ってたから図書館に行ってただけなんだ。」
「え、」
「今度からはちゃんと話しかけられるな。」

彼はニカッと笑ってよろしくな、ナマエ、と言った。よ、呼び捨て…。恥ずかしいけど、少しくらい思い上がってもいいんじゃないのかと思ってあたしもこう言った。

「あ、あたしもライナーくんに会えるから図書館行ってた!」
「おう、じゃあ今度は授業一緒に受けようぜ。」
「うん!受けよう!隣座ってね!」
「オッケー。じゃあな、ナマエ」
「ばいばい!」


ああ、こんなドラマみたいな事あっていいのか…。あたしは頬を引っ張って、夢じゃない…と呟いた。


「何やってんですか、ナマエ。ほら、早くそれ飲みきってご飯食べに行きましょう!」

サシャが迎えに来た。サシャ、あたし今日良い事あったんだよ、と言うと、くじ引きで松坂牛でも当たったんですか?とサシャは言った。…ダメだ、こいつには食べ物の話しか通じない。あたしは冷めきったカフェモカを一気に流し込んだ。

明日の授業、一緒かな。学校行くの、楽しみだな。まさか話しかけてもらえるなんて思ってもみなかった。こんなことってあるんだなあ



誰かに今日の話をしたくてたまらなかったから、結局ご飯を食べる事に夢中になっているサシャに勝手に話しかけるしかなかった。

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