スピカ

今日は雲一つ無い。きれいなスカイブルーが一面に広がっている。去年のこの時期はこんなに暑かったっけ?と思いながら、そろそろ夏がやってくるということを感じた。

「そろそろ夏だねー。」
「ん、暑いな、今日。」

朝から馬小屋掃除の担当を振り分けられていたあたし達は一通りの作業を終えて、じとりと蒸す小屋の中から外に出た。

「昼まで時間あるし、ちょっと休憩でもするか。」
「そだねー。もう疲れたや…」
「そんなほっそい体してるからだぞ。もっと食っとかないと、夏死ぬぞ。」
「ライナーと一緒にしないでよ。それに、細くないし…」

チラリと横を見ると、ライナーは上着を脱いで、インナーの袖をまくっていた。既に大人の男性らしさを手に入れようとしているその腕がいつもあたしを包んでくれているのだなぁと思うと、ハグして欲しい、と胸からじわりと生温かい何かが溢れる。
あたし達は訓練兵であるし、想い合っていてもなかなかそれを発散する時間はない、と思う。馬小屋の掃除当番が被ったのも頻繁にあることではない。
だからこうやって2人で話せることがすごく嬉しい。けれど、それは長く続かなくって、悲しくなって泣きたい日もある、そんなのが繰り返される毎日だ。
その分、一緒にいることができるときは、若さ故にお互いに甘え合っていると思う。馬小屋と兵舎の間の細い路地に影を求めてあたし達は入り込んだ。先に座ったあたしのすぐ側に座って肩をくっつけてくる些細なことが嬉しい。

「暑ぃなー。」
「うん、暑いね。」

他愛もない話を繰り返しながら、2人で肩を寄せ合いながら何気無い時間を過ごす。

「おっ、ライナーとナマエじゃん!もう仕事終わったのか?」
「おう、エレン、ミカサ。早めに済んだからな。昼飯まで休憩してる。」
「いいなー、俺らも今ちょっと休憩だけど、まだ残ってる。終わる気しねぇ…。」
「ミカサもいるしすぐ終わるよ。がんばって。」

ミカサはほんのり頬を染めて頷いた。4人で話していても、さり気なくあたしとライナーの肩や手が触れ合うのがあたし達の距離の近さを表しているようで越に浸る。あたしはまたライナーの腕を見た。エレンのとは、逞しさが違う。フェチって言うものがあるけど、今まで女子の中で話題に出ても自分に何の嗜好があるのかはわからなかった。もしかしたらあたしは腕フェチなのかもしれない。

エレン達が仕事に戻り昼時も近づいてきた。偶には何もせず、2人でいれたら良いのに。ふと、どちらからともなく手を繋いだ。ライナーがあたしの手をなぞって、あたしがライナーの顔を見ると、ライナーは誰もいないのを少しだけ横目に確認してキスをした。ライナーの大きな筋張った手があたしの腰をなぞると、甘い、生温かい何かがまたじわりと胸から溢れた。柔らかなリップ音を作ってライナーの唇はあたしのそれから離れる。あたしは、そのリップ音が作れない。どうやってるんだろう。

「ナマエ、今日の夜…」

それは合図だ。別々の宿舎で寝るあたし達が夜に偶々会うなんて事はないから。いつもライナーは口にする。
「ん…う」
あたしが返事を返しきる前にはもう唇は塞がれていて、言葉は紡げなかった。
まだ、もうちょっと。もう少しだけ欲しい。
たが、それを遮るように昼食の鐘が響くのが聞こえた。…もう少しだけ欲しいとか、あたしは欲求不満か…。我に帰って自己嫌悪に陥る。

「お腹!すいた!」
「あー、じゃ、行くか。」

ライナーはぽんぽんとあたしの頭を撫で、何事もなかったかのように立ち上がり歩きだした。

再び、暑いな、と呟くライナーの唇に目が行った。先程のキスの感覚を思い出した。はやく夜になって欲しい、かもしれない、なんて思ってしまう。ライナーは振り返ってあたしを見た。あたしのそんな感情を読み取られたのかもしれない。
ニヤリと、何想像してんだよ。と言って笑った。

「う、うるさいな!何も想像してないよ!」


あたしはライナーの背中に飛び乗ってやった。

「そりゃっ!」
「うぉっ!!この野郎!!」
「わぁっ!落ちる!落ちるよライナー!」

ライナーはあたしを背負ったまま走り出した。

そんなあまくせつないときめきが途切れながらも続くのです。そしてあたしの何もかもを溶かしてくれる気がするのです。

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