ローレルを添える
花束を持って小石が並ぶ道の上を歩くと、ザク、ザク、という音がして、他に聞こえるのは微かに耳元を掠める風の音くらいだ。
目的の場所に近づくと、どうやら先客が居たようだ。自分がここに来ている事を知られたくない彼は気付かれない内に引き返そうと、体の向きを変えようとした。
「リヴァイ兵長」
彼の存在に気付いた彼女は振り返る事なく彼の名を呼んだ。
「一言くらいかけてくれたっていいじゃないですか」
「チッ…面倒くせぇ」
「ひどいなあ、もう…」
リヴァイは仕方ないとでも言うように彼女が立っている場所へ足速に近づいた。そして地面にポツリと置かれてた墓石の前に屈み、持っていた花束を添える。その墓石には何人もの、彼の部下が眠っている。しばらく佇むリヴァイをナマエは何も言わずに見つめていた。多くの仲間の死を目の前で見てきた彼がこうして花を添えに来る事をナマエは知っていた。そしてその事を彼は知られたがらない、という事も。
「東洋ではこの時期は死者の霊がこの世に帰ってくるからお墓を参る風習があったそうですよ。何かの本で読んだんです。みんな、元気にしてるかなあ…」
「知るかよ」
「そんな事言っちゃって」
素っ気なく返す彼の言葉を対して気にする事なくナマエは小さく微笑んだ。周りは静かで2人の身動きする音と風と草木が触れ合う音だけが聴こえる。
「みんな今頃集まってお酒とか飲んでどんちゃん騒ぎしてるんだと思うと、寂しいです。」
「子供かお前は」
「…だってもし死んでからも苦しい事があったら悲しいですよ。そんなのはこっちで生きてた時だけで十分です。…あたしも早くみんなの所に行ってお酒飲みたいな…とか言ってみたりして。」
リヴァイの言うように子供のような事を言うナマエは声音は明るいものの、その表情は悲しげだった。
「いいか、ナマエ」
「…はい」
「あいつらが死んだのはあの胸糞悪ィ巨人共が居る所為だ。助けられる命もあった、そんなのは死んじまった後に考えても仕方ねぇ。問題なのは生き残ったテメェがどう生きるかだ」
「生きるのもなかなか残酷です…」
多くの兵士が死にゆく中で生き残るという事の意味の大きさだけがナマエの中で膨らんで行く。
「…でも、死にたくないな」
ポツリ、そう呟いたナマエをリヴァイは横目で見た。
「だったら、生きろ」
その後は俺がどうにかしてやる、とリヴァイが言うとナマエは一瞬呆気に取られたがすぐ顔を緩ませ笑った。
「養ってくれるんですか!リヴァイ兵長?」
「…さっき言った事は忘れろ」
踵を返して歩き出したリヴァイをナマエも駆け足で追いかける。先程までの表情をコロリと変えて、兵長ぉ!と言いながら彼の表情を楽しげに伺うナマエをうざったそうにしながらも、リヴァイの表情は穏やかだった。
「リヴァイ兵長の稼ぎなら良いお酒が飲めそうですね!」
「…死ね」
「ふふ、嫌ですよ!兵長がどうにかしてくれるんですから」
「黙れ、ナマエ」
「えっ、わ…!」
リヴァイは振り向きざまにナマエの手を取り再び歩き出した。頬を染めて本当に黙ってしまったナマエを見てリヴァイは小さく笑った。
こんなほんの束の間も生きている内に大切にしたい。それでいつか笑顔で皆に会えるように。ナマエは遠ざかった墓石を振り返った。
それで良い、と死んだ仲間達が酒の入ったコップを彼女に向かって持ち上げ、大きな口を開けて笑っているような光景が見えた気がして、ナマエは笑った。
※ローレル
花言葉:栄光、勝利