鼓動は2つ

※現パロ


「おはよ…、エルヴィン」
「ん、おはよう、ナマエ」

2人ともまだ眠気まなこで、目をこすりながら名残惜しくもベッドから出る。

寝起きは悪くないエルヴィン。それに対して私は朝がとても弱い。起き上がるのも用意するのも一苦労だ。それをよく知っているエルヴィンに手を引かれながら向かった洗面台で2人並んで、顔を洗って、歯を磨いて、ボサボサの寝癖を直した。


会おうと思うと、それとは別に優先しないといけないことが重なって、なにかとお互い忙しくて、エルヴィンに会ってないなあと気づいた時には1ヶ月の半分が過ぎていた。忙しいのはいいけれど、そろそろ充電不足だと、お互い連絡をとったのは、面白い程に同じタイミングだった。それだけで疲れが飛んで行った気がしたけれど、神様が察してくれたのか、久しぶりに重なった2人の休日。


特に今日何をして過ごすか決めるでもなく、アイボリーのカバーが掛けられたソファに2人並んで座る。そして、エルヴィンが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、テレビを見た。エルヴィンのコーヒーはブラック。私のは砂糖とたっぷりの牛乳を入れたカフェオレ。エルヴィンが淹れるカフェオレは私の好みに合わせて絶妙な加減でできている、らしい。太陽の柔らかなオレンジ色が、ちょうど良くソファまで射し込んで、私たちを包み込む。コーヒーも陽射しも、私の眠気をいざなう。

コーヒーを飲み終わるとそのままソファに2人で沈んだ。テレビに向かって体を向けて、エルヴィンが後ろから私を抱きしめるような体制になる。机の上にあった本を眺めたり、テレビに視線を戻したり、何かに意識が捉われることはなかった。テレビに映った光景を、どこか非現実的に思いながら、エルヴィンの腕に自分の腕を絡めると、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。

「この本、面白かったかい?」
「面白かったというか、すごく泣けたよ」
「へえ…次はこれを読んでみようかな…。貸してくれるか?」
「いいよ。なんかエルヴィンっぽくない本だけど、いいの?」
「ああ。ナマエが好きな本も興味あるからね」

エルヴィンの手が背後から伸びてきて、私が手にしていた本の表紙をめくる。エルヴィンと私はどちらも割とよく本を読むけれど、ジャンルは少し違う。だからこうやって私が読む本にも感心を示してくれることは、彼と私を結ぶものが増えていく気がしてすごく嬉しかった。

それまであった眠気が、エルヴィンの体の熱も伝わって、更に増していく。欠伸をひとつして、彼の方へ体を向けると、自然と腕は背中に回され、ゆるく抱き締められる。私のが移ったのか、エルヴィンも欠伸を噛み締めていた。

「ナマエとこうするのがなんだかんだで一番落ち着くな」

なんだかんだってなんだ、と思いながらも、温かさに吸い込まれるようにエルヴィンの胸元に顔を埋めた。

「働きすぎなんだよエルヴィンは」
「ナマエもあまり人のこと言えないだろう」
「エルヴィンと比べたら全然そんなことない…。でも、こうやって何もしないで2人で居るのも悪くないよね」
「確かにな」

いつもよりゆったりと喋る彼の顔を覗き込む。微睡んでゆるんでいるその表情は、少しだけ幼く感じて、私にしか見られないものだと思うと、なんとも言えない幸せみたいな感情がどんどん積み上げられていく。

エルヴィンは取り上げた私の手の甲に、ゆっくりとキスを落とす。ぼんやりと私の指先を見つめて、ぎゅっと大きな手であたしのそれを包んだ。


いつの間にか2人とも眠ってしまっていた。部屋にたっぷりと注ぎこまれていた陽の光も、起きた時にはだいぶ傾きを変えていて、エルヴィンが晩御飯の買い出しに行こう、と言った。

「作ってくれるの…?」
「簡単なものでいいならね」
「ドリアが食べたい…」
「ちょっと自信ないから手伝ってくれると嬉しいな、お嬢さん?」

エルヴィンは眉尻を下げ、その碧眼を細めて私に手を差し出す。
もう少し眠っていたかったけれど、2人で共有する時間を夢の中で過ごすのも勿体無い気がして、エルヴィンに手を伸ばした。

ぐっと手を引っ張ってもらって体を起こす。体に感じた重力は、まだ休んでいたいという体を魂ごと現実に引き戻すような、そんな感じがした。


今日が終われば多分会わない日が再び続くのだろう。その時はまた、お互い引き寄せられるみたいに連絡を取り合えたら良いなと思った。その方が、2人を繋ぐものの強さがわかるから。
握ったその手さえあれば、明日からまた前を向いて生きていけるのだ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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