星は掴めない

※現パロ


仕事も終わって、スーパーに寄ったらいつもより少しだけゆっくりと歩いて帰る。夏が終わって涼しくなったこの時期の夜の道を歩くのが彼は好きだと言っていた。その言葉を思い出したから、歩くペースを落とした。空には何よりも明るく輝く満月が星の光を消してポツンと浮かんでいる。偶には月を見ながら歩くのも良いなと思った。夜道には気をつけなさいと、いつも彼は言うけれど。


部屋に着いて晩ご飯の支度をしていると、エルヴィンさんが帰ってきた。今日は月が綺麗だよ、と嬉しそうに言っていた。やっぱりエルヴィンさんも空を見ながら帰ったんだなと思って、思わず表情が緩んでしまう。今日は晩ご飯を食べたらお月見をしようと思った。


「ねえ、エルヴィンさん。窓辺で月を見ながらお団子食べませんか?」
「良いね。じゃあ、お茶を淹れよう」

彼は柔らかく笑って賛成してくれたお茶とスーパーで買ってきたお団子を窓辺に持って行ったら窓を開けて2人並んで座る。月を見上げながら食べたお団子の味は、まずまずだった。

「綺麗だ」
「ですねー。中秋の名月に満月になるのは次は8年後らしいですよ。あ、そうだ、写真撮っとこ!」

ポケットから携帯を取り出してカメラを起動させる。携帯だと拡大しても月はあまり綺麗には写らない。

「やっぱりスマホじゃ綺麗には写らないですねー」
「そうだな…。この辺を写したらどうだい?」
「ん?ここ?」
「違う、こっち」

さりげなくのつもりなのだろうけど、エルヴィンさんはあたしの後ろから腕を回して、手を重ねたらそのまま携帯を動かした。横から抱きつかれているみたいだ。

「な、なるほど…」

こんな事くらいで赤面するほど野暮じゃないと、平然を装いたいのに心臓が一気にどきどきする。早く離れて欲しいような、そうじゃないような。カシャリ、というシャッターの音よりも、彼の着ているシャツの衣擦れの音の方が大きかった。

「あ、綺麗に撮れてる…いいですね、これ」
「ああ、そうだね。あとで私の携帯にも送って欲しい」

エルヴィンさんはあたしから離れるとお茶を飲んでそう言った。
恥ずかしくなってしまった所為であたしの口数は減る。エルヴィンさんもたくさん話す訳でもなく、ポツリ、ポツリと話しては月を見上げていた。その姿が格好良くて、こっそりと彼を見上げる。

「ナマエ」

視線に気がつくと、小さく笑ってキスをしてくれた。柔らかいくちづけが落とされて、目を開けると、エルヴィンさんの睫毛が儚げに伏せて影を落としているのが見えた。彼の金髪や睫毛は月明かりに照らされてきらきらと輝いている。

重ねるだけのキスは、啄ばむようなバードキスに変わったと思ったら、徐々に長く、長くなっていく。

「ん、う…あ、」

キスをしながらゆっくりと身体が倒されていって、背中が床につく。エルヴィンさんはあたしの顔のすぐ横に肘をつけて、片方の手はあたしの手を握って、もう片方の手で、髪をときほぐすように頭を撫でてくれる。見上げてみると、その瞳は何故か楽しそうだった。

「ナマエ、月が綺麗ですねって言う言葉が何を意味するか知っているかい?」
「…なかなかに、ベタですね」
「はは、でもつい思い出してしまうな」
「こんなに綺麗ですもんね」
「ああ、…あとこれも知っているかい?」
「…?なんですか?」
「満月の夜は、男は狼になるんだよ」
「ふふ、大変、食べられちゃう!」

エルヴィンさんが笑いながらそう言うものだから、あたしもつられて笑ってわざと小さく抵抗する。抑え込むように強く抱きしめられた。

彼は狼とか言いつつもまた優しくキスを落としたけれど、次は本当にあたしは食べられてしまうのだった。

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