白兎の涙

※『恋する兎はマリッジブルー』の続き


兵士として生きてきてからもうしばらく経った。その所為か、女性なら誰でも憧れるこの催事を絶対にやりたい!とはあまり思っていなかった。2人だけで指輪を交換して一生を誓えたらそれで良いと考えていたのに、彼は式を開こうと言うし、こういった事に興味の無さそうなあのハンジさえ、結婚式をして欲しいと言ったのだ。思わずそれに頷いてしまってから一瞬で今日が来てしまった。

ドレスを着た自分を鏡で見て、ああやっぱり結婚するんだな、と思ったら今日が人生の変わり目な気がして、胸がいっぱいになる。

「ナマエ、とっても綺麗だ」
「ありがとう、ハンジ…」
「ねえ、リヴァイもそう思うでしょ?」
「…馬子にも衣装だな」
「うん…あたしもそれは否定できない…」

豪勢すぎるのは嫌だからと希望したシンプルで真っ白なドレスが変じゃないか、結婚式に関心が無かったとは言え少しだけ気になった。変じゃないかとハンジに尋ねると、ハンジは、さっきも言った通りだよ、さあ行こうか、と言った。

小さなチャペルの入り口に3人で向かう。ハンジは嬉しそうに喋り続けるし、それにいつもの調子でリヴァイも返すものだから、少しだけ緊張も解けた。

「じゃあ私は先に入るね。」
「うん、ありがとうハンジ」

ハンジが中に入ってちょっとしてからリヴァイが口を開いた。

「緊張してんのか」
「ま、まあ…」
「多分、エルヴィンは緊張してないと思う」
「確かにそんな気がする…」

エルヴィンには着替える前から顔を合わせていない。この中に居るであろう彼はきっといつもの様に飄々としているのだろう。はは、と空笑いをすると、だけどな、とリヴァイはこちらを見た。

「俺はナマエを見た時のあいつの反応が楽しみだ」
「え?」
「おら、行くぞ」
「あ、え、わ…!」

リヴァイに腕を組まされたら、すぐに目の前の扉が開かれた。
中にいるのは本当に少数の、普段お世話になっている兵士達。目の前のバージンロードの向こうには、彼がいた。皆がおめでとう、と口々にしている中をリヴァイと2人で通り抜けていく。嬉しいというか、なんだか恥ずかしい。斜め下ばかり見ているあたしにリヴァイが、着いたぞ、顔上げろ、と小さく呟いた。

恐る恐る顔を上げたら、いつもと少しだけ違う髪の分け方をして、タキシードを着たエルヴィンが立っている。その画になる姿に見惚れる前に、彼の唖然とした表情が気になって仕方がなかった。

「エルヴィン…面白えツラしてんな、お前」

ニヤリと笑ったリヴァイは、それだけ言って自分の席に着く。エルヴィンがそんな表情をしているものだから急に不安になってきた。なんであたしは結婚に関していつもこう不安になるのだろう。もう決めた事なのに。

「あ、あの…エルヴィン」
「すまない、ナマエ…」
「え?」

開口一番がすまないって何!?一瞬本当に心臓が止まった。エルヴィンは口元を手で覆っている。お互い数秒固まってしまった。そのまま固まっていると、エルヴィンがそっと手を退けて呟いた。


「私が思ってたよりずっと、私は君の事を愛しているみたいだ…今、ナマエを見てそう思った。」


茫然としたままそう言う彼を、あたしは唖然として見上げた。なんだ、結婚は辞めようとかそういうんじゃ、なかったんだ。2人でその表情のまま固まっていると、段々おかしくなってきて同時に噴き出してしまった。彼と居たら不安に思うだけ無駄だという事ばかりだ。そんな事に今更また気付かされた。

「綺麗だ、ナマエ」
「結婚は無しにしようとか言われるのかと思いました…。…ありがとうございます。エルヴィンも、素敵です」
「そんな事言うはずないだろう?ありがとう」

エルヴィンはいつの間にか普段の優しい表情に戻っていた。途端に格好良さが増すんだから、ずるい。


エスコートを受けて神父さんの前に並ぶと、式は始まった。


誓いの言葉を交わしたら、指輪を交換した。少しだけ震える手を彼は優しく撫でてくれる。

誓いのキスを、と言われた瞬間、チャペルの中は少しざわつく。ニヤニヤしているハンジの表情が視界に映り込んだ。皆、絶対おもしろがってる。ひきつった表情をしてしまったのがバレたのか、エルヴィンは小さく笑って、気にしなくて良いと、あたしの頬を撫でて言った。恥ずかしいのは恥ずかしいのだけど、それでも彼を想う気持ちを考えたら、そんな事は気にしていられなかった。

唇が重なると、一層周りはうるさくなったけど、もうどうでも良かった。あたしは今幸せだ。と、思ったのは良いものの、エルヴィンはこの状況を楽しんでいるのか、あたしの腰に手を回した。その瞬間また周りのボリュームが上がる。長い長いキスだった。


「本当に嬉しい。なんだか感動してる。こんなに嬉しいのなんて久々だ。」


やっと唇が離れて、エルヴィンはあたしの両手を取ってそう言った。

「あたしも、嬉しい、幸せです…。ありがとう」

見つめ合って笑うと、また唇が触れ合った。


結婚式なんてしなくて良いと思ってたのに、やっぱりこの人と一緒に居られて本当に幸せだと思えたこの日をあたしは一生忘れないと思う。


凛々しくも優しい表情を浮かべる彼の隣に立って、そう思うあたしの頬に静かに涙が伝った。

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