午前0時の微睡み

※大学生と社会人エルヴィン


「はい、上がってナマエ」
「おじゃましまーす」

何度か来たことのあるエルヴィンさんの部屋。さすが社会人でそれなりに稼いでるだけあって広い彼の部屋はシンプルなインテリアが置いてあってそこがまた、彼は大人なのだと思い知らされる。今日は、いつもと少しだけ気分が違ってどきどきする。

何でかっていうと今日は初めてエルヴィンさんの部屋に泊まるからだ。

「先にシャワー浴びてくるかい?」
「あ、はい!」

大学生のあたしとは違って、毎日仕事で忙しい彼と会える時間は限られている。だけど偶然に明日は休日が重なったので、夜に待ち合わせておいしいイタリアンをご馳走してもらった。それから帰りにレンタルショップに行って今晩観るDVDを何本か借りて、コンビニに行っておつまみとお酒を買って、今に至る訳だ。



お泊まりって、その、大人ならいろいろある訳じゃないですか、なんて頭の中で変な事を考えてしまうあたしは、やらしい子にでもなっちゃったのだろうか。
そんなどきどきを抱えたまま、シャワーを浴びてお気に入りのシャツとショートパンツを寝間着代わりに着た。



2人ともシャワーを浴び終えてテレビの前のソファーに座り、買ってきたお酒の缶を開ける。

「乾杯」
「かんぱーい」
「どれから観る?」
「どれがいいですか?」
「ナマエが決めて良いよ」
「えと…じゃあ、これで」

そう言うとエルヴィンさんはDVDをセットし始めた。
いつも整えられた彼の髪はシャワーを浴びたばかりだからかくしゃくしゃで時折水滴がポタリ、と落ちる。その部屋着も、缶ビールを飲む姿も、気を抜いてくつろぐ姿も見た事のないものばかりだ。そりゃあ、どきどきも避けられない訳で。

「ナマエ、映画じゃなくてそんなに私が気になるかい?さっきからずっとこっちを見てる。」
「えっ、いやあの……ハイ」
「なんかずっと緊張してる」
「そ、そんな事ないです!」
「はは、わかるよ。ちゃんと笑ってくれないから」
「う…だって…」
「だって?」

そう言ってる間にも映画は進む。でもエルヴィンさんは、じっとこちらの方を見つめてあたしの背中を撫でた。
その瞬間、大きく心臓が脈打って全身に血が巡る感覚がした。

「だって、何なんだい?ナマエ」
「え、エルヴィンさん…いつもと違うから…」
「ナマエだっていつもと違うよ」
「あんま顔見ないでください…!恥ずかしいから…!あと近い!近いです!」
「ナマエ、」
「あ、」

一瞬、この部屋を満たしているのはテレビから流れる音声だけになった。パタリ、とあたしの背についたのはソファーの背もたれじゃなくて座る所で、顔の横にはエルヴィンさんの手が置かれる。

「え、エルヴィンさん…」
「ナマエ、好きだ」

そう言ってあたしの顔にかかった髪を大きな手の指で退けると、そっと触れるだけのキスをしてくれた。

一度口付けて顔が離れると目が合って、お互い吸い寄せられるみたいにまた唇を重ねる。

エルヴィンさんの濡れた髪からあたしの頬に水滴が落ちる。普通なら爆発しそうなくらいどきどきするのに、大きな手が頭を撫でてくれて、彼の優しさが体に染み込んでくるみたいでふわふわする。このまま、しちゃうのかな。何度か触れるだけのキスをするとエルヴィンさんはぱっと起き上がって両手をひらひらさせた。

「はは、すまない。今日は何もしないから。」
「あ…」
「映画、だいぶ進んでしまったね」
「エルヴィンさん」
「なんだい?」
「あたし、良いのに…」
「…ナマエ」

さっきの雰囲気は、大学生だったら間違いなく最後までするよ。でもそこが違うのはエルヴィンさんが大人だからなんだ。でも彼が好きだから全部してしまいたいと思うなんてあたしは何かを焦っているのかもしれない。

「ナマエ、もう寝ようか。」

コクリと頷いて返事をする。心なしかさみしいというのが正直な気持ちで。

「長く会う時間も取れなかったし、ナマエと話がしたいよ。」

エルヴィンさんはまたあたしの頭を撫でて、そう言った。


ああ、そうだ。あたしがエルヴィンさんを好きなのは、あたしの話をたくさん聞いてくれて、あたしを、わかってくれようとする所なんだ。そう思うと自分の浅はかさに少し恥ずかしくなった。


それから2人でベッドに潜ってたくさんお互いの事を話した。大学の事、友達の事、エルヴィンさんの仕事の事。
あたしの全てとエルヴィンさんの全てをお互いに知ってゆく。
時々彼がいたずらでくすぐってきたり、キスをしたりして幸せでいっぱいだった。全部をあげるってお互いの事を知って理解していく事なのかもしれないなあ、と微睡みながら思った。

「明日は何がしたい?ナマエ」
「DVD観なきゃ。」
「それからは?」
「んー…眠くて考えれない…」
「はは、もう寝ようか。」


明日の事は明日決めれば良い、とエルヴィンさんは枕に片肘をついて呟いた。

彼を見上げるとやっぱり欲しくなる。


「エルヴィンさん…」
「ん?」
「キス…してください」


ゆっくりと彼の顔が近づいて、リップ音が響く。あたしに向けてくれるその微笑みとキスが好き。それだけじゃないけど、いつも欲しくなるんだよ。好きなんだから。


「おやすみ、ナマエ」


明日もまた、彼の事が知れたらいいな。好きだと思ってもらえたらいいな。そう感じながらあたしは彼の腕の中で眠りに落ちた。

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