the one

※日本人ガールと外国人エルヴィン


気分転換しよう。

そう決めて、自分の部屋を飛び出した。

何となく外に出る気分になれなくて、家でじっとしていたら、それも嫌になって最近買った本と、財布とケータイぐらいの少ない荷物を持って近くの喫茶店に入り込んだ。

クーラーが効いた涼しい店内に入り、ドアが閉まるとミンミンという蝉の鳴き声や車の音などの騒音はシャットアウトされる。しかし、適度な人の声やBGMは居心地が良くて、やっぱり家にいるよりもましだと思った。

新しいフレーバーのコーヒーに目がいって、それをレジで頼んでカップを受け取ったら、1人で座れるカウンターに座って少しケータイをいじって、本を取り出した。



しばらくすると誰も座っていなかった隣の席に誰かが座った。チラリと見ると、隣の席の人は金髪の男性で、グレーの細身のスーツを身に着けていた。おお、やっぱり外国人は日本人とは遺伝子が違うよなー、かっこいいなあ、と誰でも思うような事を一瞬だけ考えてまた文字の羅列に目を落とした。


「Do you like it?」
「ひぇっ…!?」
「Sorry, I’m curious about what you’re reading, because I’ve just read the same book…」
「あ、えと…、Really…? Ah… yes, I like this.」
「Cool.」


隣の彼はがちがちの英語でそれでもあたしに通じるようゆっくりとした口調であたしに話かけてきた。わ、わわ、言ってる事はわかるけど、突然この日本で英語で話しかけられたらびっくりする!どうやら彼はあたしが読んでいるものと同じ本を読んだみたいで、感想でも語り合いたいのか、やたらにこにこして話しかけてきた。

「I’m Erwin, and you? Would you mind if I talk with you for a while?」

彼は自分の名前をエルヴィンだと、笑顔で名乗った。


…新手のナンパかよ。



それがエルヴィンとあたしの出会いで、あたしが彼に抱いた第一印象である。



エルヴィンはその時偶々仕事で日本に来ていて、彼曰く、最近読んで気に入った本を偶々隣に座っていた素敵な女性が同じ物を読んでいたのでつい声をかけてしまった、らしい。たどたどしい英語で一生懸命受け答えするあたしを気に入ってくれて彼が自分の国に帰ってからも、何回も連絡を取ったし、仕事で日本に来る事も多くて日本に来る度に会おうと言ってくれた。

彼は本当に優しくて、少し落ち込む事があった時はすぐにあたしの表情を読み取ってくれて話を聞いてくれた。だから、最初は外国人の友達ができてラッキーとしか思っていなかったのに、いつしかこの瞳が好きだなあとか、声が好きだなあと思うようになってしまっていた。



彼と一緒に歩いていると、頻繁に彼を振り返る女性達が居るくらい、本当に素敵な人だった。彼の隣を歩いているのがあたしである事にある日突然嫌気がさした。あたしはこの人に見合う女性じゃないから。ああ、この人と一緒にいては駄目だなあと思って、何度も繰り返してきた連絡を途切らしたのは、あたしだった。

自分で自分の恋を勝手に終わらしておいて憂鬱になり、あの日出会った喫茶店でまた本を読んでいると、エルヴィンから電話がかかってきた。一度は手にとったケータイのディスプレイを見て、黙ってポケットにしまった……のは良いものの、それから10分以上何度もケータイのバイブは鳴り続ける。

「あー!もう!!うるさい!!」

1人で叫んでしまい、周りの視線が突き刺さる。それが恥ずかしくてしょうがなく通話ボタンを押してしまった。



「…Hello?」



『…やっと出てくれたね、ナマエ。久しぶり。どうして電話に出てくれなかったんだい?』
『ええと…いそがしかったから…』
『今は大丈夫なのかい?』
『…ハイ』
『君に嫌われたのかと思ったよ』
『ちがう。きらいじゃない…こんな事言うのもなんだけど、あなたにはもっといい人がいると思って。』
『そんな事言わないでくれ。これでも私なりに努力してきたんだ』
『…どういう事?』
『君とは住んでいる国が違うし、他の男に君を取られたくなくてね』
『…ごめん、もう少しわかりやすい英語で言って…』

英語で話す事に慣れてきたはずなのに、やっぱり時々意味がわからなくて、聞き返す。それでも、何となく彼が言った事の意味がわかって、心音が早まる。

『あー、OK。ちゃんと言うよ』
『ごめんなさい』
『後ろ、向いて』
『え?』

そう言われて後ろを振り向くと、エルヴィンが立っていた。連絡をしてなかったせいでこっちに来ている事を知らなかったから驚いてしまう。

『最近連絡が取れなかったから、ここに居るかなと思ったら、やっぱり居た。』
『び、びっくりした…』

やっとそこで2人とも電話を耳から離した。エルヴィンはあの日と同じようにグレーのスーツを着ていた。

『さっき言い直そうと思った事、きちんと言うからよく聞いて、ナマエ。』
『はい…』

彼はあたしの手をとって、初めて会った時のように、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「I like you so much. Be with me.」


好きじゃなきゃわざわざ遠くから来て毎回会って欲しいなんて言わないよ、と彼は言って、あたしの手の甲に口付けた。
お店の中に居る人達がちらちらとあたし達を見ていたのは、この状況の所為なのと、あたしが恥ずかしげもなく子供みたいに大泣きしてしまったから。



わかりにくいですが『 』の中は英語で話していると思います多分。

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