08
訓練兵団へやって来てしばらく経った。あたしは、いつ、元居た場所に帰れるのだろうか。もうずっと、このままなのだろうか。



相変わらずエルヴィンさんはあたしに心を開いてくれないし、むしろあたしの事を嫌いなんじゃないだろうかとすら思う。エルヴィン団長の方がまだ優しかったよ。団長の方の彼に会いたい。なんて切ない毎日なのだ。

夕食時を終えて人のいない食堂で、無意識に重たい溜め息を吐いた。

「はあああ…」
「お疲れですか?」
「わわ、エルヴィンさん!疲れてないですけど、…あたしにも色々あるんですよ」


誰もいないと思っていたので突然声を掛けられて驚いて振り向くと、エルヴィンさんが居た。気配消すのやめて欲しいんですけど。

「そう、ですか。もし、よろしかったら兵法についてわからなかった所を教えて頂いても?」
「あ、はい、任せてください。」

なんだか不思議だった。基本的な兵法をエルヴィンさんに教えるだなんて。いつもはあたしが彼に作戦の説明を受けて、質問して、指示を仰いでいたから。

「そういう事か、わかりました。ありがとうございます。」
「いえいえ!エルヴィンさんも調査兵団に入れるようサポートしますからね!いつでも質問してください。」
「ありがとう、ございます…。しかし訓練兵達に敬語で話したり、名前で呼ばせたりして良いのでしょうか」
「え?」
「…いえ、何でもありません。失礼します。」

あれ、つい感謝された事が嬉しくてにやけてしまったから、最後の方を聞いてなかった。ひいちゃったのかな?あたしの目を見る事なく、彼は去っていってしまった。



そろそろ寝ようかな、と飲みかけだったお茶を飲み干すと、誰かが食堂に入って来た。何も声を発さなかったので、気になって振り返ると、名前は思い出せなかったが訓練兵の男の子が立っていた。

「そろそろ就寝じゃないですか?」
「そう、なんですけど、あの…」
「どうしたんですか?調子、悪いとか…?」
「あのっ!!…ナマエさんが好きです!!」
「…は?」
「好きなんです!!付き合ってください!!」

何かの罰ゲームでも受けているのだろうか。思いも寄らぬ告白に驚いたというか、どっちにしろ教官として訓練兵に少し馴れ馴れしくし過ぎてしまったか、と少し頭の中で反省した。好きになられるために、教官と呼ばせなかったり、敬語で話したりしていた訳じゃない。原因はこれだと思う。

「ごめんなさい、」
「いっ、嫌です!」
「嫌と言われても…あの、離してください!」

両手首を掴まれ、引っ張られる。今にも彼の腕の中に収め込まれそうになってまずいと思った時、誰かが彼の手を掴み上げた。

「何してるんだ、教官が困ってるぞ」
「エ、エルヴィン…!!」

彼の手を掴み上げたのは、さっき出て行ったはずのエルヴィンさんだった。

「…何かあったのか?」
「い、いや、何でも無い!」

そう言って訓練兵は出て行ってしまった。助かったのでお礼を言おうと顔を上げると、エルヴィンさんは怒ったような表情をしていた。…どうしよう、気まずいけどとりあえずお礼を言うために口を開こうとすると、彼によって遮られた。



「本当何なんですか!訓練兵に対して敬語でいつまでも話すし、名前で呼ばすし。ああやって訓練兵達になめられて…どうするんですか」
「…滅相もございません」



もしかしてもしかしなくてもあたしはエルヴィンさんに今怒られている。声を荒げず、冷静に。地味に怖い。
確かにあれはあたしの落ち度である。でも予想外だったんだ。しょうがないじゃないか。人間なんだから誰かの事を好きになったりもするでしょうよ。

「ご、ごめんなさい、エルヴィンさん。でも、なんでそうやって訓練兵に接するかって言うと…あたしは、信じて欲しいんです。今は集団での訓練だから、規律は守らなければならない。命に関わる事だし。だから教官は皆厳しいんです。だけど、あたしは調査兵団の兵士です。壁の外に出たら、信じるべきなのはまず自分自身と、何だと思います?」
「は…?」
「自分の周りに居る人ですよ。上官でも部下でも何でも。壁の外は思っているよりもずっと…ずっと過酷です。だからまず信じて欲しい。あたしにとってはそれが力にもなります。あたしが取ってる方法は幼稚だけど、あたしを信じてくれるなら。」
「だからって名前で呼ばせたり、敬語で話したりしなくても…」
「あなただってあたしを名前で呼びたくないんでしょう?あなたにはあなたの、あたしにはあたしのやり方があります。」
「…そう、ですか。」
「とにかく、ありがとうございました…」
「いえ、」



そう言ってエルヴィンさんは顔をそむけて、また目を合わせてくれなかった。助けてもらっておいて、生意気にも言い訳がましくあんな事言ってしまった。これは、信頼とか以前の話よりもいよいよ嫌われた…?


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