06
あたしは翌日から調査兵団から訓練兵団へ飛ばされた。飛ばされたって言ったら訓練兵団の人達に失礼だけど、それでも想定外だったんだ。許して欲しい。


上官や同じ指導を行っている兵員達に挨拶を済ませ、訓練の日程を教えてもらう。主に座学の兵法と立体機動の訓練を担当するみたいだ。そして、さっそく座学を行っている教室に顔を出し、訓練兵達とも顔を合わせた。まだそんなに嘆くほど歳を取っていないのに、あたしにもこんな若い時期があったなあ、なんて思った。皆、一生懸命だ。良い成績を取って憲兵団に入りたい子が多いのかな、それは毎年の事だし。はたまた世間体を保つためか。まあ、どっちにしたって頑張っているんだ。

なんだかんだ後輩の面倒を見るのが好きだったから、訓練兵の教官も悪くないかも…とぼんやり思う。駄目だダメだ。あくまでも調査兵団に戻って働く事があたしの本来の仕事だ。



授業を終えた後、担当する訓練もないし、久々に戻って来た訓練施設でどこに何の建物があるのか確認するために散歩する事にした。とぼとぼ歩いていると、あちこちに記憶とは異なる風景がある事に気がつく。

「あれ、ここ寮があったはずなのに、無い…?」

何度も思うけどまじで記憶障害なのか。建物もわからなくなってる…。嫌な事を考えながらぼーっと歩いていると、突然建物から曲がって出てきた誰かにぶつかってしまった。

「う、わっ!…ごめんなさい!ぼーっとしてて…」
「こちらこそ、すみません!」
「気にしないでください」
「…あなたは、新しい教官ですね。失礼致しました。急いでたもので…」
「あ、いいえ…」

ぶつかってしまった人の顔をそこでやっと見た。訓練兵団のエンブレムが付いた戦闘服を身につけている、訓練兵だった。背の高い、金髪の男の子。なんだかどこかで聞いた事のあるような声だし、見たような事がある姿だな、と思った。きりっとしてて、でもどこか優しげで…。

「おい、エルヴィン、何してんだよ。今日の食事当番俺達だぞ」
「ああ、すまない、今行く」

後ろから他の訓練兵が彼に声を掛けた。思わず聞こえた名前に反応してしまう。

「え、エルヴィン…?」
「はい、エルヴィン・スミスです。以後よろしくお願いします、教官」
「えっええ!?エルヴィン・スミス!?」


あたしは目の前にいる青年を見上げた。なんだか有り得ない推測が頭を過ぎる。
何故あたしが驚いているのかわからない青年は、困ったようにあたしを見下げていた。


エルヴィンって…あの!?いや、確かに似てると思ったよ?いやいやいやいや、まさか。あたしが知っているエルヴィンさんは訓練兵じゃなくて調査兵団の団長だし、ちょっと後退を心配しちゃう七三分けで、こんな若くなくて…。いや、馬鹿にしてる訳じゃないんですけど。


もし、万が一、今、目の前にいる青年とあたしの知ってるエルヴィンさんが同一人物ならば、あたしは……


「あの、大丈夫でしょうか。教官?」
「きょっ、教官だなんて呼ばないでください…!あなた本当にエルヴィン・スミスさんですか!?」
「はい、そうですが…。」
「う、うそ…七三じゃない…」
「七三…?」
「あ、何でもない、です…。あのっ、失礼じゃなければ希望の配属先を聞いても…?」
「はい、私は調査兵団に所属したいと思っています。」


彼の瞳は、冷静に真っ直ぐにあたしを見た。揺るがない。あたしはこの目を見た事がある。髪型なんて関係なかった。多分、この人、あたしの知ってるエルヴィン・スミスだ。髪型と体格はちょっと違うけど、眉毛も、目も、鼻も、口も、あの人のものだ。


「申し訳ありませんが、食事当番ですので、失礼しても…?」
「ごめんなさい…引き止めてしまって」
「いえ、それでは失礼します。」


やっぱり違ったんだ…。その時あたしは記憶障害なんかじゃなかったと確信した。


しかし新たな問題が湧いて出た。


訓練兵のエルヴィンさんに出会った。
つまり、記憶障害じゃないならば、あたしは今、過去にいる…んですか。有り得ない。


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