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「訓練兵のエルヴィンさんを、何があっても死なせてはいけないと思っていました。だけどずっと若いエルヴィンさんを通して団長の方のあなたを見ていました。だからあの頃のエルヴィンさんは、私が他の人を見てるって感じてしまったんだと思います。…ごめんなさい。あたし、エルヴィン団長の事が…」
「それは、手紙とも関係しているかい?」


エルヴィンは彼女の言葉を遮って微笑んだ。彼への気持ちを既に知られているのでこれ程恥ずかしい事はない。


「…は、い」


ナマエは、小さく頷いた。ああ、この人はずるいなあ、とナマエは眉尻を下げた。好きだと言うタイミングが、曖昧になってくる。彼女からしてみたら到底及ばない上司との駆け引きは難しい。それでもその優しい瞳に、きゅう、と胸が締めつけられた。ここまで来たら躊躇する事なんて無い。ナマエが口を開いたのと、体が引き寄せられたのは同時だった。重なる手の中には、ナマエの手紙が入っていた。


「皮肉な話だな。私は君をあの時から想い続けてたって言うのに、君は今の私に会いたかったと言うんだ」


エルヴィンはナマエに手紙を預け、両手で彼女の頬を包み込む。一瞬その視線は唇へと落とされた。

彼の青い瞳と視線が混ざる。ナマエの瞳が不安気に揺れた。

2人の距離がほとんどゼロになった時、エルヴィンが口を開きほんの微かに唇が触れ合う。



「昔からずっと好きだった」



恐る恐る、触れるか触れないかの口付け。唇が離れたあと、ナマエはぽろぽろ涙をこぼしながら、必死に頷いて微かに言葉を紡いだ。その唇が望んだものを象った瞬間、長い後悔がやっと報われた気がして、それを見たエルヴィンは、次は戸惑う事なく、深くナマエにキスをした。



ナマエの涙を拭いながら、数え切れないほど口付ける。ナマエもそれを拒む事はなかった。



ナマエの息が上がって、やっと唇が離れた。深呼吸をして、もう1度きちんと伝える。


「好きです」
「私も、ある意味君が手紙の最後に書いてたもの、そのものだった」


随分と遠回りして、やっと今それが交差した。心の何処かで、ずっとナマエとまた会えると現実味の無い事を思っていた。だけど、それが叶って、もう1度彼女に出会わなければ、人としての感情なんて失くしていたかもしれない。


「やっと言えた」


伝えられないまま、終わらなくて良かったと、ナマエは笑った。同じ事を考えていたエルヴィンは一瞬目を丸くしたあと、もう後悔しないように、今度こそは離してしまわないようにと、ナマエを抱き締めた。


エルヴィンの背に腕を回すナマエの手に大事そう包まれた小さな紙切れが音をたてる。2人を繋ぎとめて、時間を結んでくれたのだ。


END


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