02
エルヴィンは昔の事を思い出す必要があるなら馬を走らさなければと意識を現実に戻した。

馬を最速の速さで走らせる。あとどれくらい走ればつくのだろうか。


「ナマエ!死ぬな!もう少しで壁に着く!」
「エ、ルヴィン…だん、ちょ…ちょと、もう、無理…みた、いです…」
「喋らなくていい!頼む、壁までもってくれ…!!」

ナマエ、とエルヴィンが呼ぶ彼女は、エルヴィンが兵士長になって間もない頃に調査兵団へ入って来た。ずば抜けた身体能力こそないが、機転が効く戦闘センスで生き残ってきたナマエはエルヴィンを支える部下の1人で、いつもニコニコとしていた。変人の巣窟である調査兵団の中では唯一普通と言ってもいいような子だった。


そして命に関わるこんな時まで彼女は微笑んでいる。


壁外調査中、奇行種の集団によりエルヴィンが率いていた最前線は襲撃を受けた。ナマエも最前線で戦っていたが、部下が巨人に囚われているのを助けたおかげで致命傷を負ってしまった。そして、多方面で動いていたほとんどの班も襲撃を受けたため撤退を下さざるを得なかったのだ。


「エルヴィン団長!!奇行種が前方から3体!!後方にも数体の巨人が集まってきています!!」
「左翼も右翼も煙弾が上がっているな…!!撤退だ!!陣形を整えてこのまま壁を目指す!!」
「はい!!」

ナマエは撤退を告げる煙弾を打ち上げた。ほとんど崩れている陣形はUターンをし、壁へと向かう。ナマエは率いていた隊に向かって叫ぶ。

「できるだけ巨人との接触を避けて!どうか、生きて帰って!!」

「う、うわああああ!!」
「ラファエル!?」

突如として兵士の叫び声が上がり、ナマエは後ろを振り返った。ナマエと同じ隊員であるラファエルが後方から突然現れた巨人に掴み上げられる。半刃刀で抵抗しようとするが体のほとんどが巨人の手の中にあり、ほとんど効果がないようだった。助けなければ…!!

「っ…!他の巨人との距離はまだだいぶある…っかな!!」

ナマエはアンカーを飛ばし巨人に向かう。スピードで巨人の手を何とか除け切り、ラファエルを掴んでいる腕を切り落とす。そのまま半刃刀身を巨人の目に向かって投げた。

「ギオン!!ラファエルを!!」
「はっ!!」

落ちたラファエルを助けるように他の部下に指示を出す。目も潰した。逃げる時間は作れるだろう…そう思った瞬間、暴れた巨人の手が当たり、巨大樹に叩きつけられた。更に運が悪かったのか、伸び始めの幹が右腹に刺さる。

「ぐっ…がはっ…!!」
「ナマエ!!」

エルヴィンが先を進んでいたナマエに追いつくと、ナマエは3mはありそうな高さから落ちて再び地面に叩きつけられた。

「ナマエ!生きてるか!?」
「い゛っ…!!ごほっ…!!痛っだああああ!!」
「叫ぶな、ナマエ!!彼女を荷台に乗せてそのまま進むぞ!」
「でもっ、ぐっ、痛いですよコレ!!」
「いいから黙るんだ!!」


最初の内は痛みに耐えられたのか、痛いと口にしていたが段々顔色も悪くなり、息も絶え絶えになってゆく。
馬が疾走する音や、罵声が飛び交う騒音の中、ひゅーひゅーというナマエの呼吸音だけがエルヴィンの耳には聞こえていた。


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