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それからどれくらい泣いたかは覚えてない。嗚咽が止まらなくなるほど泣いてしまったのでずいぶん時間が経った気がする。落ち着いてくるとエルヴィンさんの胸に顔を埋めている自分が恥ずかしくなってきた。よく考えたらもういい歳なのに、子供みたいに泣いてしまうなんて。それも、上司の胸を借りて。

「ごっ、ごめんなさい…!」

がばっと、ようやく自分を取り戻してエルヴィンさんから離れた。多分というか絶対顔もぐちゃぐちゃだ。見られたくなくて髪の毛を整える振りをして下を向く。

「謝る事なんて無い。落ち着いたかい?」
「あ、はい。ありがとうございます…。いやでも、鼻水とか涎とか多分、つけちゃったし…」
「っぷ…、あはは!異常が無さそうで何よりだよ、ナマエ!」

ハンジさんが吹き出したので、そう言えば他の人も居たという事を再確認する。馬鹿正直に鼻水とか涎とか言ってしまって、エルヴィンさんや他の人は苦笑いしているし、ハンジさんには笑われている。完璧エルヴィンさんしか見えてなかったあたし…!

「は、ハンジさん!」
「本当、もう目を覚まさないんじゃないかと思ったよ…良かった」
「ご心配おかけしました…」
「体の調子はどう?傷はもうほとんど完治してるんだけど」
「どこも痛くないです。むしろ寝過ぎちゃったのか体がだるいくらいで…」
「そっか。歩いたりしてもいいと思うけど、体力が落ちてるだろうから、無理しないで」
「はい。ありがとうございます」

エルヴィンさんや、ハンジさんが居て、他にも仲間達が居て、本当これまでの事は夢だったんじゃないだろうかと思う。自分の存在に違和感を感じない事がこんなに幸せなのだと感じる日が来るなんて思ってもみなかった。


「じゃあ、私達はこれで失礼するよ、エルヴィンがさっきからとーっても話したそうにしてるしね」
「はは、そんなにバレバレだったかな?」
「さっきからじゃなくたって、ずっとそうだったじゃない」

ナマエが寝てる間大変だったんだからぁー!じゃあごゆっくり!とハンジさんは他の兵士も連れて出て行った。なにか大変な事でもあったのだろうか。だけど、エルヴィンさんが仕事で手こずっていた所なんて見た事がない。

「そんなつもりはなかったんだがな…」

不思議に思ってエルヴィンさんを見上げると、彼は苦笑いして、彼女が出て行ったドアを見つめていた。


部屋からあたしとエルヴィンさん以外誰も居なくなった。2人きり、というだけで顔が赤くなるのがわかる。ふう、と彼が一息ついて、静寂が余計に、他に人が居ない事を意識させた。先程までの和んでいた空気が、恋しく感じた。


「ナマエ」
「…はい」


ベッドの縁に座る彼はあたしの左手を取って、優しい低音で呼びかける。彼の顔を見れなくて、繋がるその手に視線を落とした。あたしの指を一本ずつ辿って、手の甲をなぞる彼の親指。恥ずかしさだとか、触れられる嬉しさだとか、色々なものがごちゃまぜになって押し寄せてくる。

けれど恥ずかしさを隠す事はできなくて、元から赤かった顔は更に熱くなっていく。何か喋ってくれと思うと、彼はそれを察したかのようにポケットから1枚の紙を取り出した。


「君が意識を戻すほんの少し前に、これを読んだんだ」
「あ…!これ…」
「まず、ナマエに確認したい事がある」
「…はい」
「君は…昔の私と会った事があるね…?」
「…は、い」
「もうそれだけで十分だ」


「あの時からずっと待ってた」


今まで見た事ないくらい彼の表情が緩んでいた。手を取っていた反対の腕で頭を引き寄せられ、優しく抱き締められる。人形のように固まったあたしの頭をその大きな手で撫でた。
こんなの、色んな意味で勘違いしてしまいそうになる。どうすればいいのかわからない。沈黙が今のあたしには気まずくて、とにかく今まであった事を話そうと思った。自分でも何が本当なのか確認したかったから。


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