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「エルヴィン団長!ナマエさんが…!」

若い兵士は緊急である事を示すようにドアを開いた。その時エルヴィンはすでに立ち上がって彼女の所に向かおうとしていた。古びた紙を手にして。

部下の話を聞く事なくエルヴィンは部屋を飛び出した。


戻ってこい…!もう勝手に姿を消すなんて許さない。ナマエさんはやっぱり君自身なんだろう…!?

手紙を読むタイミングはまさに今だったようだ。エルヴィンはパズルのピースが合うようにいろんな事の辻褄が合う気がした。焦る気持ちを押さえ込んで、彼女の元へと歩みを進める。


怪我を負ったナマエを運びこんでから何度も通った彼女の居る部屋のドアを躊躇する事なく思いきり開いた。

「エルヴィン…!」

彼を呼ぶハンジの姿を見てエルヴィンは目を見開いた。正確には、ハンジの腕の中を見て、だが。

半泣きのハンジの腕の中には、意識を取り戻したナマエが居た。



ナマエが目を覚ますと、半泣きのハンジに思いきり抱きしめられ、生き返ったのに死ぬ!と思わず叫んだ。たくさんの記憶が錯綜して何が何だかよくわからない、わからないけれどとにかく戻って来れた。これはきっと確かだと、噛みしめたナマエは黙ってハンジに抱きしめられた。するとドアが大きな音をたてて開いた。

「……ぇ、ルヴィンさ、」
「ナマエ…!!」

エルヴィンと視線がかち合ったのは確かにナマエだった。


彼女は吸い寄せられるように伸ばされた腕の中に閉じ込められた。突然の予期せぬ事にナマエは背筋を伸ばし、目を丸くする。けれどそれはすぐに喜びや安心となってナマエは彼の背中に腕を回した。耐えきれず涙してしまう。


「っふ…エ、ル…ヴィンさん…っ」
「良かった…っ!また、君が居なくなるんじゃないかと…!」
「ごめ…な、さい…っ、でも…っ良かったあ…!エルヴィンさ、んっ、生きてる…っ!」
「ああ、生きてるよ、生きてる。ナマエに助けられた」

その会話にナマエとエルヴィンの2人以外の者は首を傾げた。彼らからしたら不思議な会話だろう。
エルヴィンは彼女の頭を何度も撫でて、抱き締める腕に力を込める。どこにも消えてしまわないように。


「戻って来てくれてありがとう、ナマエ」
「…っう、」


その言葉を聞いた瞬間ナマエは堰を切ったように泣いた。大切な人を初めて守る事ができたからだ。

エルヴィンの腕を隊服に皺が残る程握って、顔を真っ赤にしてぼろぼろと涙をこぼした。

子供みたいに声を上げて泣いたのなんてもうずっと昔の話だ。本当にそれはもう子供みたいに泣いた。


誰かをただ守りたいと思ったのは初めてだった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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