25
気がつくとポツン、と真っ白な世界に1人で小さく座っていた。


ナマエ、…ナマエ、


誰かがあたしの名前を呼ぶ声が白い壁に反響している。夢でも見ているのだろうか。


そういえば何をしていたんだっけ、ラファエルを助けたら巨大樹に叩きつけられたんだっけ。…でも、その後、まだ若い頃のエルヴィンさんに出会ったんだ。

エルヴィンさんは、あの後生きて帰る事ができたのだろうか。必ず戻ると告げたけど、あたしは、生きているのか死んでいるのかもわからない。おそらく意識が戻る事はないと感じた。だから、約束は守れない…。彼じゃなくて自分が怪我を負った事は良かったけれど、良くなかった。彼を最後まで守り抜く事なんかできてないじゃないか。もしあの後、巨人に見つかって食われていたら?あたしがあの場所に居たのは、彼を守る為だったのに。

ただ彼を守りたいって、思った。エルヴィンさんは団長になる人だから。人類の希望だから、冷酷だとか、非情だとか言われるけれどそれはあたし達の為で、皆に必要とされる、素敵なあたしの上司になる人だから…好きになる人だから…

あたしは誰かを守れるほど強くない。

だから結局、あの場所に居た自分は何だったのか。あたしなんて、必要無かったじゃないか。


ぼろぼろと、絶え間なく涙が落ちた。顔を膝に埋めて声を押し殺して泣いた。


名前を呼ぶ声はまだ聞こえている。


死んでいった兵士達もこうやって何の為に死んだのかわからずに、ただ涙を飲んだのだろうか。悔しさを感じたのだろうか。そしてあたしはそれを背負って生きていたはずだ。
誰かにすがって、嘘でも良いから、お前ができる事はやったじゃないかって言って欲しい気分だ。

ナマエ、と呼ぶ声が次第に近づいて大きくなってきた。

顔を上げて、突然その声に耳を澄ませてやろうという気になった。夢の中はいつでも気まぐれだ。よく聞くとそれは暖くて包み込んでくれるような金色で丸を縁取った蜃気楼になって近づいてくる。濡れた頬が温まって心地良い。自然と瞼を閉じた。

次第に音程が下がって、聞いた事のあるものに変わっていく。


ナマエ、


生きてるよ、生きてる。


だから戻っておいで。


これは夢なのかな。それすらわからない。
眩しい世界は突然真っ暗になって消えた。


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