19
エルヴィンは迷う事なく、調査兵団への入団を決めた。


調査兵団の新兵として訓練も受け、ついに明日には壁外調査を控えていた。

壁の外に出ればたくさん人が死ぬ事はわかっている。もしかしたら自分も死ぬかもしれないのに、不思議と恐怖はなかった。それがどうしてか考えてみると、彼女が調査兵団に戻るからだという事が、一番に頭に浮かんできた。


「まさか」


それは違うだろうと、頭から振り払うように明日の事を考えた。


「あれ、…エルヴィンさん?」
「ナマエさんですか?」

暗くてよく見えないけれど、その声の主はナマエだった。噂をすれば影とやら。

「先客が居ましたかー…。ここ、なかなか穴場ですよね」
「よくここへ…?」
「まあ、最近見つけたというかなんというか」

また何かをはぐらかされたな、とエルヴィンは感じた。その事に関してはもう慣れてしまった。

宿舎から少し離れた丘の上は、エルヴィンだけが知っている場所だと思っていた。星が一面に見えて邪魔する物は何も無く、ただぼんやりとここで過ごすのを、彼は気に入っている。
一方、ナマエにとってここは過去に来る前から知っている場所で、ナマエも自分だけが知っていると思っていた。ここだけが唯一、自分が知っているものと変わらなかった。


「壁外調査に向けてはどうですか?陣形も頭に入りました?」
「大丈夫です。さすがに明日ですから。気は抜けないですけど」
「さすがエルヴィンさんですね」
「ナマエさんも、調査兵団に戻られたんですね」
「あー、はい。1度、様子見ということで」

ナマエは無事、明日の壁外調査に参加する許可を得ていた。その後は結果次第、という条件付きで。


「壁の外に出たら、どうなるんでしょうか」
「…怖い、ですか?」


壁の外に出た事もなく、巨人を見た事もない。エルヴィンにはまだわからない事の方が多い。この時代のエルヴィンと幾分か時間を過ごしてきたけれど、あくまでナマエにとっては上司であるエルヴィンが初めて壁外調査に出る場面に遭遇する事は不思議な感覚だった。怖いと思うのだろうか。はたまた何も想定できない状態なのか。彼の感情の部分をフォローできないのが今のナマエには事実で、もどかしく、ただ、怖いのかと聞く事しかできなかった。


「…怖くないと言ったら嘘になるかもしれません。多くの犠牲が出るだろうし、避けられないのでしょう。俺も、死ぬかもしれない。だけどこのまま留まっていても何も変わらない。…だから調査兵団を選んだ」


明日、どんな絶望があるのかわからない。きっと彼なら乗り越えるのだろう。ナマエはそう思った。やっぱり自分にできるのは、彼が死なないように守る事だけだった。

「エルヴィンさんならきっと、大丈夫です。訓練兵の時もあれだけ優秀だったんですから!…はー!あたしは少し緊張します!なんせ久々ですからね!」


ナマエは腕を宙に上げて、背伸びした。そしてしばらく喋らないで真っ直ぐと遠くを見つめていた。その横顔は、彼女がどこか遠くの人なのではないかと思わせるほど、切なかった。

ゆっくり息を吸うと、ナマエはエルヴィンの方を向いて笑った。


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