18
「新兵を率いた次回の壁外調査に出させて下さい。結果次第で今後を検討して頂きたいのですが」
「しかし、訓練兵団の方からもお前はなかなか教官としても腕が立つと聞いているからな…」
「外に出るのは1度だけでも良いんです。いや、良くないですけど…。とにかく結果が出せなければ処遇は問いませんから」
「…わかった。掛け合ってみるが、結果は期待するな」
「ありがとうございます」


バタンと、やけに重たく感じた上官の部屋のドアを閉めた。


エルヴィンの訓練兵団卒業がもうじきやってくる。


ナマエがエルヴィンの前で涙を流してしまってからお互いそれに触れる事はなかったし、今まで通りに過ごしている。
彼が訓練兵団を卒業するまでに、自分も調査兵団に戻りたいとナマエは考えていた。彼が居ない訓練兵団に居ても意味がないからだ。だからああやって上官に掛け合ってみたけれども、ストレートに希望が通る訳でもなかった。

「はぁ…」

思わずこぼれ落ちた溜め息は重たい。


「ナマエさん、こんにちは」
「あ、エルヴィンさん…お疲れ様です」

調査兵団本部から戻って来ると訓練終わりのエルヴィンに会った。彼は汗をかいたのだろう。上着を脱いで腕にかけていた。その紋章はまだ訓練兵のものだ。これが調査兵団のものに変わって、彼は壁外に出るのだろう。団長になる人だからと言っても、きっと絶望を見る。

「どこかに行かれてたのですか?」
「はい。調査兵団本部に」
「調査兵団本部に…?」
「エルヴィンさん達が卒業したらあたしも調査兵団に戻りたいと思って交渉してきたんです」
「戻られるんですか?」
「いや、まだわかりません」

ナマエは苦笑いを浮かべた。訓練兵である彼に何を言っているんだろう、とも思った。

「もう少しで、卒業ですね」
「はい。でもナマエさんが調査兵団に戻られるならまたお世話になります」
「はは、そうなると良いんですけど」
「…何故そんなに調査兵団にこだわるんですか?」
「んー、どうでしょう」

また困ったように笑ってナマエはエルヴィンを見上げた。こういう時、どうも自分ではない誰かを見ているのではないのかと、エルヴィンは思う。


「強いて言うなら、…大事な人が居るから、ですかね」


彼女の瞳に浮かぶ何とも言えない色はきっとそれが原因していると、エルヴィンは感じていて、自分を見る彼女の表情も気になっていた。けれど、確信が持てないから、聞けないでいる。


彼女の口からは大事な人、という言葉がよく出てくる。


彼女が教えてくれた隊列の組み方や戦闘法などは聞いた事無いものばかりで、斬新だった。どうやったらこんなもの考えつけるのか、と聞くと、大事な人の受け売りです、とはにかんで言うのだった。

彼女が時折口にする大事な人とは誰なのか。調査兵団に所属している兵士なのだろうか。彼女にそんな風に思われている事がエルヴィンには羨ましく感じられた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -