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あなたの役に立ちたいとか、一緒に戦いたいとか、守りたいとか、それは単なる理想であって、その気持ちは口にできるほどあたしは強くもないのに、いつからこんなに欲張って大それた事を思うようになったんだろう。



「え、エルヴィンさんが怪我…?」
「そうなんだけど…、ちょっ、ナマエ…!待って…!」

壁外調査が終わり、次は報告資料やらなんやらの処理に追われるはずだった。団長の執務室へ向かうとそこには彼の姿は無くて、しばらくしたら帰って来るだろうといつものように仕事に取り掛かろうとした時、執務室に来たハンジさんは深刻そうな顔でエルヴィンさんが怪我をしたと告げた。


その知らせを聞いた瞬間、あたしの足は医務室に向かっていた。どうしようどうしよう命に関わるような怪我を負っていたら…!


エルヴィンさんが団長になってからあたしは流動的にあちこちの班で任務に当たる事があった。今日は偶々その日で、よりにもよって自分がエルヴィンさんのいる隊列に居ない時に…、と悔しさを紛らわすように自分の下唇を噛みしめた。

「エルヴィンさん!?」
「テメェ、もうちょっと静かに入ってこれねェのか。」

大きな音を立ててドアを開けてしまったのも構わずエルヴィンさんの名前を呼ぶ。そこにはあたしの所為で不機嫌そうなリヴァイさんが居た。

「リヴァイさん…っ!エルヴィンさんは!?」
「奥のベッドだ。」


焦りすぎてリヴァイさんにお礼も言わず奥のベッドへ突き進む。恐る恐るベッドに居るであろう彼の姿を見た。


「っエルヴィンさん…」


彼はベッドの上で背中を預けて座っていた。

「ああ、ナマエ。すまない。足を骨辺りまで抉ってしまったようでね、今回は運が悪かった。…そんなに心配そうな顔をしなくても良い。すぐに任務に戻れる。それまでは書類の処理はいつも通りにしてくれれば良いし…」
「違います…っ!!」
「ナマエ…?」
「…ごめんなさい…」
「え?」

泣いてしまっては元も子も無いのに、どうしても涙が出てきて止められない。
エルヴィンさんが居ないから仕事どうしようとか、そんな事は自分の頭の中に一切浮かんでこなかった。そんな事は問題じゃなかった。ただ、彼を守りたいと思っていたのにそれができなかった事が悔しくて。でも彼を守る事なんてあたしなんかができるはずもない。その葛藤が渦巻いてどうしようもなかった。

「ごめっ、なさい…!守れなくて…っ!!」
「ナマエ、泣かなくても…それに君は違う配置に居ただろう?」
「でも…っ」
「っもう、ナマエ!私の話を聞かずに走っていっちゃうんだから!…あー、泣いちゃってるし…」

あたしの後を追ってきたハンジさんが背中をさすってくれた。なんだかそのおかげでひどくほっとしてしまった。

「うわあああハンジさあんっ!!良かったあ…!ひっく…、死なっ、死ななくて…!」
「だから命には関わらないって言おうとしたのに…」
「うるせェ、ナマエ。アホみたいに泣くな。こいつが死ぬ訳ないだろ」

鬱陶しそうにリヴァイさんは顔をしかめる。その割にはあたしの髪をくしゃりと撫でてくれた。この人が実際は優しい人なのだと言う事は、エルヴィンさんの補佐をするようになってから知った。3人は何も泣く事ないのに、大げさだ、と口々に言う。

「だってえ!うっ…エルヴィンさんが、死んじゃったらあたっ、あたし…っううっあたしが怪我すればひっく、良かっ、たんですよお!」
「はは、大げさだよ、ナマエ。」
「大げさっ、じゃないです…っ」


また怖くなった。誰かが死んで、あたしが生き残る事が。もし彼が居なくなればあたしは生きる意味を失くす。それが今は1番怖い。


だから、あたしは単純にあなたを守りたいのです。あたしが生きる為、じゃなくて、あなたと共に生きたいから。

守れるほどの力もないのに、ただそればかりを望んでしまう。


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