14
ただ漠然と、調査兵団に入ろうとしていたあたしの頭の中はよっぽど平和だったと思う。
生きる意味や、命を捧げる覚悟を見つけようと足掻いたのは自分だけど、そこまで冴えた人間じゃないあたしはただ単純に、彼の姿を追うために生きていたいと思った。



訓練兵団を卒業し、希望していた調査兵団への入団を決めた。団長から一言あった後に、側に控えていた兵士長からも言葉が送られた。

前に立ったエルヴィン兵長の顔を見上げてその瞳を見た瞬間、まるで一目惚れしたかのように体に血が巡る感覚がした。彼は、壁の外に出れば、命の保証はない。それでも人類の反撃の為に命を捧げる覚悟をして欲しい、と言った。この人についていきたい、きっとこの人は覚悟を決めている人だ、と直感で思った。



だけど、単純に上手くいくはずがない。

初めて壁外に出て、人が巨人に殺されるのを見て、調査兵団に入った事を後悔した。それと同時に死んだのが自分でなくて良かったと思った自分にひたすら憎悪を感じて、しばらく誰の顔も見る事ができなかった。それなら生きてても恥ずかしくないようにするしかなかった。

仲間達が次々と死んでいくのに、自分は生き残る。それがどういう事なのか、そこに意味を見出す必要があった。じゃないといつまでも成長できなかったから。

何か1つでもあたし達が壁から出られる手助けをしよう。エルヴィン兵長が言っていた覚悟とはそういう事なのだ。甘かった自分を捨てて、ひたすら訓練に打ち込んで、ひたすらに生き残った。



エルヴィン兵長が率いる班に所属する事が決まった時、恥ずかしい事はできないと更に訓練に身が入った。他の人達に比べれば、討伐数があるわけでもなかったけど、工夫して戦う事は得意になったと思う。

エルヴィン兵長と共に訓練を初めてした時、初めてエルヴィン兵長と直接言葉を交わした。ただの平兵士である自分は彼と関わる事なんてなかったから。その時の事は今でも覚えている。


「ナマエ…?」
「はい、そうですが、何故兵士長はあたしの名前をご存じで…?」


名前を知られていて驚いた。そしてエルヴィン兵長も何故か驚いた表情をしていた事がひどく印象に残った。名前を知られている事は有り得る。だけど、姿を見た瞬間に名前が出てくる事なんてあるのかな。あたしはエルヴィン兵長の事なんてほとんど知らないのに、彼はとても懐旧に満ちた優しい眼をしていると感じて、目が離せなかった。



あたしが調査兵団に所属してから数年が経って、エルヴィン兵長は団長に就任した。それは良かったのだが、あたしの兵士生活にも大きな変化が起きる。

「失礼します…」
「ああ、ナマエ。これからよろしく頼むよ」

初めて団長の執務室に入った瞬間、心臓が高鳴った。ずっと、背中を追っていた人の補佐になるなんて。執務室には新たに兵長や分隊長に就任したリヴァイ兵長やハンジ分隊長達の姿もあった。



「君がエルヴィンが自ら団長補佐に指名したナマエだね!」
「おいおい、ハンジ。余計な事を言わないでくれよ」
「いいじゃないか!私達を指名してくれた事は教えてくれたのに!」
「し、指名…?」
「そうだよ!あれ、知らなかった?」
「はい、それなりに壁外調査を経験してしぶとく生き残ってたから選ばれただけだと思ってましたから…」
「あはは!おもしろい事言うね!まあそれも1つだし、君の働きを見たのもきっと1つだよ、ねえエルヴィン?」
「ああ、確かに適当に選んだ訳ではないよ。」



エルヴィン団長は真っ直ぐあたしを見て笑った。

その一言で、その笑顔で、あたしの生きる意味は彼らを支え、彼らと共に戦う事になった。もちろん、人類の進歩の為に。そして、いつも胸にしていたのはエルヴィン団長の役に立ちたい、という事だった。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -