13
「ナマエさん…!?」


ああ、悲劇のヒロインぶってどうするんだ…。なんで泣くんだ。


あの人に会いたいのに、会えない。何故此処に居るのかわからない。


会えないなら、何故此処に居るのかわからないのなら、自分で生きる意味をここで見つければ良い。
ただそれだけの事なのだ。いくら考えても状況は変わらないのだから。



目頭に力を込めると、意外とすぐに涙を止める事ができた。



「エル、ひっく…、ヴィンさ、ん…!」
「どう、したんですか…」
「…痛いですよおおお!かよわい乙女にひどいです!!」
「なっ…!」


エルヴィンさんの首元を掴んで力任せに起き上がり、前に力を押し続ける。
ドサリ、とエルヴィンさんの背中が地面につく音がした。

「はは、ならず者も最後まで気を抜いたら駄目ですよ。」

どさくさに紛れて彼の手から奪い取ったナイフを彼の胸の上に置いて、立ち上がる。他の誰にも見られないように涙を手の甲で拭うと、手についた砂のざらりとした感覚がした。


「さあ!今日の対人格闘術の訓練はここまでです!お疲れ様でした!」


ポケットから出した懐中時計を眺めた後、訓練兵達の方を向いてそう告げる。


エルヴィンさんはあたしが何を隠しているのか気にしているけれど、別にあたしがどうだとか関係ない。彼に、言う必要も無い。そして彼が知った所でどうにも、ならない。

それでも若いエルヴィンさんを見ると思い出す。



エルヴィンさんが大切だった。何の思いも告げられないままだった。

別に伝えなくても良いと思っていた。でも人って行動しなかった事の方がきっと後悔が大きいのだと、今になって気付くなんて。



思わず流してしまった涙を見られたし、不意打ちで倒してしまったエルヴィンさんは呆気にとられていた。解散後、すれ違う瞬間、彼は小さくあたしに話しかけた。


「なんであなたは…」
「へ、何か言いましたか?エルヴィンさん」
「…いや、何でも」
「ずるい手、使ってごめんなさい。それじゃあ」
「…いいえ。では、失礼します。」


彼は何か言いたげな表情をしていたけどあたしの表情を見た後自ら口をつぐんだ。今のあたしはそれを気にしていられない。
訓練兵達が向かう方とは反対方向にある、教官用の宿舎へ向かう。



歩く速度を速める。はやくはやく。


角を曲がって誰も居なくなった所でやっと足を止める事ができた。



「っ、ぅ…あ、…とまれっ…!」



この涙が出てくる理由は知っている。


ただ、さっきは涙を止める事ができたのに、今それができないのが、どうしてかわからなくて


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