01:氷帝学園


「あーん?なんで俺様が氷帝学園を選んだか…だと?」
 質問を繰り返しながら、座っていた椅子ごとくるりとこちらを振り返った跡部さん。その姿はまるでテレビでよく見る"社長"だ。だいたい生徒会長だからってこんな豪華な生徒会長室を設けること自体がおかしい。こういうのを公私混同と言うのではないだろうか。
「はい。別に跡部さんなら、ここでなくても良かったと思うんですが」
 報道委員として、跡部さんに対する質問をノートにまとめてきていた。空いているスペースに回答をメモしようとして構えたままじっと視線を送り続けると、少し間があった後に跡部さんがいつものように「ハッ」と鼻で笑った。なんとなく、イラッとする。
「まぁな。ここの設備もほとんど俺様が仕入れたものだし、ここじゃなくても良かったことは確かだな」
 さらりと髪をかき上げる仕草。もう見慣れたと言うべきか、見飽きたと言うべきか。
「じゃあ単純に言うと、この近辺にある青学や不動峰や山吹でも良かったわけですね?」
「バーカ、物には限度ってモンがあんだろ。青学はまだしも不動峰や山吹中は論外だ。あんな立地も悪いところを俺様が選ぶわけねーだろ」
「……そうですか」
 少し大げさに質問を変えただけなのにバカ呼ばわりされてまた少しイラッとする。口の悪さも天下一品、本当にこの人は出し抜くのに時間がかかる。
「ま、それじゃお前の委員としての活動にならねーだろうからそれっぽく答えてやるよ。答えは簡単だ。ここは開拓する余地があったってことだ」
「開拓する余地…ですか」
「ああ。今でこそあの場所にいくつもテニスコートがあるが…広げようと思えば、まだコートを増やす余地はある」
「なるほど…地理的な理由ですか」
「まぁそれが第一ってところだ。ここは立地もいい。何事も設備や環境が整ってなければ偏った強さだけが育っちまうだろ。俺が目指してるのは全国ナンバーワンだ。満遍なく強くなんねーと意味ねーからな。設備・環境、いろいろなものを整えるのに適していた…そういうわけだ」
 椅子の肘掛に肘をついて頬杖している姿があまりにも似合っていてまた少し腹が立つ。しかしそのことを無視して、ひとまず跡部さんが話した内容をメモすることに集中した。すると不意に、自分の手元にわずかながら影ができた。なんだと思って顔を上げると、跡部さんが身を乗り出すようにして覗き込んでいた。
「なんだ日吉。こんなインタビュー、テープレコーダーに録音しときゃいーじゃねーか」
「今故障中なんですよ」
「故障中?向日にでも見てもらえ」
「ええ、さっき向日さんに頼みました」
「ハッ、そうかい」
 また鼻で笑って、それから椅子に座り直す跡部さん。すらりと足を組むのがほんの少し机から見えたが、その様子までサマになっているのを見ると、なんでこんな人が強いんだろうかとぼんやり疑問を感じてしまった。
「ところで日吉」
「なんですか」
「さっきから俺様の態度が気にいらねーって顔してるじゃねーの」
「…そうですか?」
「てめーは表情に出なくても目つきが変わるから分かり易いんだよ」
「…そうですか」
「そのつまんねー返事もなんとかしねーとな。下剋上を成し遂げるには、この俺様を超えてくるくらいの勢いがねーと困るぜ?」
「わかってますよ。どうせ今の俺じゃ跡部さんには敵いませんよ、それは事実です。でも見ていてくださいよ、絶対超えてみせますから」
「…わかってるじゃねーの、その心構えが大事だからな」
 また、さらりと髪をかき上げる。窓の外からの光をきらきらと返しながら、外ハネの髪型へと戻る。その様子を睨みつけるように見ていると、不意に跡部さんが椅子から立ち上がった。俺の視線なんてまるで無視して、そのままつかつかと歩き出す先はドアの方。慌てて振り返って「跡部さん!」と呼び止めれば、くるりと振り返って「あーん?」と返事をした。
「なんだ、インタビューはもう終わりだろ?俺様は散歩にでも行ってくる」
「さ、散歩って…」
「いいか日吉、てめーは俺を超えることは出来ない。たとえ俺をテニスで負かすことが出来たとしてもだ。なぜだかわかるか?お前と俺では土俵が違うからだ。お前は俺に対して下剋上を成し遂げる、それもいいが、その先ではお前はお前として、この氷帝で地位を手に入れなければならない。わかったな」
 パタン、と、静かにドアの閉まる音がした。言うだけ言って、跡部さんは去ってしまった。何から何まで俺とは別次元のような存在の跡部さん。口が悪くて、他人を見下してて、本当に腹が立つ人なのに何故あそこまで強いのか。それはテニスの腕だけじゃなく、人間として。ちくしょう、どこまでも俺は追う立場なのか。
 イライラする傍らで、俺が入ったのが、そして跡部さんが選んだのが氷帝学園で良かったと思った。

























***

氷帝学園にこじつけて終わった(笑)



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