部活の帰り道をだらだらと歩いていた。家まであと10分ほどというところに小さな公園があった。まさにその出入り口の横を歩いているとき。真横から小さな子供が走ってきた、と思った瞬間にはぶつかっていた。
「あでっ」
 思わず舐めていた飴を噛み砕く。よろけて2、3歩ほど道路に飛び出るが、車があまり通らない住宅街だったために轢かれる心配はない。そして当たり前に、ぶつかってきた子供を見てみれば、そちらもぶつかった衝撃でよろけてしまったらしく座り込んだ状態で丸井を見上げていた。
「大丈夫か」
 近づいてしゃがみこみ、立ち上がるのを手伝ってやろうと腕を掴む。見たところ3歳くらいの小さな男の子で、掴んできた丸井の手を掴み返して立ち上がる。
「…っ、」
 その少年がぐっと歯を食いしばった。瞳に涙が溜まってきて、今にも泣き出しそうな顔になる。あ、やべ、泣いちまうかも、と丸井は思ったが、少年は涙を必死に耐えて目元を拭った。
「おー、よく泣かなかったじゃん。えらいえらい」
 よしよし、と頭を撫でてやると、少年が涙を堪えた顔を一度頷かせた。
「あ、そうだ」
 そこで思いついた丸井が、肩にかけていたバッグを地面におろした。ごそごそと漁る様子を少年がじっと見ていたが、これなら大丈夫だろぃ、と呟いて丸井が取り出したのは棒のついた飴だった。飴の部分だけ四角いセロハンで包装してある、子供向けの飴だ。5歳のほうの弟がよく食べているものだが、昨日の夕食後に『兄ちゃんにもあげる』といって一本くれたのを持っていたのだ。
「ほら、泣かなかったからこれやるよ」
 ピン、と目の前に差し出してやると、少年が飴を見てから丸井の顔を見る。
「…知らない人に物もらっちゃいけないって」
 口を尖らせて小さな声で言うが、その顔は期待しているようなものだった。
「大丈夫だって。これをママに見せてみろぃ。食べていーよって言ってくれるぜ。あ、でもな、これを食べるときはママと一緒にいろよ」
「どうして?」
「どうしてって…えっとな、ママのいるときに食べるともっと美味しいから」
 棒が喉に引っかかったら危ないだろ、なんて言ってもよく理解しないと思ったので適当なことを言うと、少年が「うん、わかった」と笑って飴を受け取った。
「レンー」
 すると、公園の中を隠すように立っている木の向こうから女性の声がした。その声を聞いた途端、少年がパッと明るい顔をして振りむく。
「ママ!」
 そして女性の姿が現れる。この少年の姿を探していたようで、きょろきょろと見回していたがこちらに気づいて手を振る。少年も、まるで丸井の存在など忘れてしまったかのように母親のもとへ駆け出す。
「レン、またな!」
 とっさに声をかけると、ハッと、少年が振り向く。
「またねー!」
 そして声を張り上げて大きく手を振り、またその小さな歩幅で母親を目指して走り出した。ぶつかるように母親に抱きつき、丸井のやった飴を見せびらかす動きをすると、母親が丸井のほうを見て頭を下げる。それまで見守っていた丸井も軽く頭をさげる。それからまた視線を下げた母親に少年が頭を撫でられるのを見て、丸井は安堵してから再び家路を歩き出した。























***

丸井くんは子供の扱いに慣れてそうだ。


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